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「マルチスポーツ」に見るアメリカとの文化の違い

 アメリカでNFL選手になるということは、そのまま全米スポーツ界のトップ・オブ・トップであることを意味する。アメリカンフットボールは“国技”と呼ばれ、900万人といわれる全米の競技人口の中の、ほんの一握りの人しかNFLのフィールドに立つことはできない。さらにはボディコンタクトの激しい競技だけに、故障のリスクも常につきまとう。

 これはもちろんMLBでも同じこと。日本プロ野球のエースでも、未だ活躍のハードルが高い最高峰の舞台。ましてやその両立の難易度の高さとなると、想像を絶するものがある。

 アメリカのスポーツ界には、こんなにとんでもないことをやってきた歴史がある。これはひとえに「マルチスポーツ」に対する文化の違いなのだと思う。要するに、アメリカではマルチスポーツ=競技の掛け持ちに対するハードルが日本と比べて段違いに低いのだ。

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 基本的にアメリカでは季節ごとに複数の競技をプレーするのはあたりまえ。もちろん高校・大学と進んでいくにあたり、選手として活躍するためのハードルは高くなっていくものの、それでも求められるプレーの基準を満たして好成績を残す選手は、最後まで複数の競技をプレーし続けるケースも珍しくない。前述のウィルソン選手の妹は、現在スタンフォード大学で陸上競技とバスケットボールをプレーしていて、いずれも代表候補だそうだ。

 現地のある大学指導者は、マルチスポーツの重要性についてこう解説する。

「体幹の強さやボールの感覚など、いくつものスポーツで共通するスキルやテクニックは多い。野球の守備練習のために下半身を鍛えたら、アメフトのカットバックが良くなった、なんて話は良く聞きます。それに、試合でしか育たない精神力は、機会が多いほど強くなる。また、別の競技をプレーすることでモチベーションも保ちやすくなります」

日本でも“二刀流選手”が活躍する日が来るかも?

 そんな話を聞くたびに、ふと日本でもこういう「他競技との二刀流」がもっと流行るといいのになぁと思ってしまう。

身長185cmと恵まれた体躯を持つ木村沙織 ©JMPA

 先日、あるサッカー関係者と話をしていた際、冗談でこんなことを言っていた。

「(昨年に引退した)女子バレーの木村沙織選手とか、サッカーやりませんかねぇ。あの長身であれだけの反射神経は……すごく良いGKになると思うんです」

 また、数日前に話をした競輪関係者は、雑談の中でこんな話を漏らしてきた。

「平昌五輪のマススタートで金メダルを獲った高木菜那選手、彼女のレース戦略や脚力はすごく競輪向きだと思うんですよね。最後のコーナーで一気にトップに立つ形、まさに競輪の王道でしょう。彼女が引退したら、こっちの業界にきてくれないかなぁ」

姉妹で計5個のメダルを手にした高木菜那(左)と美帆(右)。妹の美帆は、中学時代は女子サッカーの北海道選抜チームの一員でもあった「二刀流」選手 ©JMPA

 もちろんどちらも冗談半分の与太話ではある。でも、話を聞くと夢が広がるとは思わないだろうか?

 木村沙織が守るゴールマウスや、高木菜那が見せるゴール直前のラストスパート――想像するだけで見に行きたくなる人も多いのでは。こういうところにも、新しいスポーツの魅力は眠っているような気がする。なによりプロスポーツにもっとも必要なのは、こういった「ワクワク感」のはずだ。

 日本でも大谷を超えるようなインパクトを与える、新たな二刀流選手が誕生する日が来るかもしれない。