2020年3月、兵庫県神戸市西区の精神科病院「神出病院」の看護師や看護助手ら6人の男が、患者への虐待容疑で一斉に逮捕された。看護の道を志して集まった彼らは、なぜ卑劣な犯行に手を染めたのか。閉ざされた病棟ではいったい何が起きていたのか?

「暗い雰囲気だった。人も、施設も」。事件当時、病院にいた看護師たちはそう振り返る。病院は今、新体制となり、全国でも先進的な医療を手がける精神科病院に生まれ変わろうとしている。

 ここでは、事件の背景とその後に迫った神戸新聞取材班の渾身のルポルタージュ『黴の生えた病棟で ルポ・神出病院虐待事件』(毎日新聞出版)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

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写真はイメージです ©アフロ

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事件に対してあまりにも無責任な病院の対応

 県警の発表を受け、新聞各社は夕刊で事件を大きく扱った。

 全国紙は軒並み社会面のトップ級で展開する。

 神戸新聞は、地元の重大ニュースとして「新聞の顔」といわれる1面で報じた。

〈看護師ら6人 患者に虐待容疑で逮捕/神戸の病院、放水や監禁〉

 

 統合失調症などのある複数の入院患者に放水したり、閉じ込めたりする虐待行為をしたとして、兵庫県警捜査1課と神戸西署は4日、監禁や準強制わいせつなどの疑いで、神戸市西区神出町勝成の「神出病院」の元看護助手、田村悠介容疑者(仮名、27)ら6人を逮捕した。

 

 他に逮捕されたのは、いずれも同病院の看護師の、船本賢治(ふなもとけんじ、仮名、26)▽近藤正史(こんどうまさし、仮名、33)▽梯誠吾(かけはしせいご、仮名、34)▽東山慧一(ひがしやまけいいち、仮名、41)▽剛田壮志(ごうだそうし、仮名、33)―の各容疑者。

 

 田村、船本、近藤容疑者の逮捕容疑は2018年10月31日未明、同病院の病室で、入院していた63歳と61歳の男性患者2人に対し、体を押さえ、無理やり互いにキスをさせるなどのわいせつな行為をした疑い。さらに19年9月20日夜に田村、梯、東山容疑者が病院のトイレで男性患者(79)を裸にし、椅子に座らせて顔に放水した疑い。同月日夜には田村、梯、剛田容疑者が男性患者(63)を床に寝かせ、上から落下防止用の柵が付いたベッドを逆さに覆いかぶせて閉じ込め、監禁した疑い。

 

 同課によると、全員容疑を認めている。いずれの容疑にも関わったとされる田村容疑者は「患者のリアクションが面白かった」などと話しているという。

 

 田村容疑者は昨年12月、若い女性への強制わいせつ容疑で逮捕された。捜査過程で、患者への虐待の様子を収めた複数の動画が同容疑者のスマートフォンから見つかり、他の5人が浮上。いずれの動画も3人勤務態勢の夜に撮られていた。

 

 同病院の佐藤章二(仮名)事務部長は「詳細が分からないため、改めて会見を開いて話す」としている。 (※事件当時は実名)