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テレビ朝日“財務次官セクハラ疑惑”会見に学ぶリスク管理術

臨床心理士が言葉と仕草を徹底分析したところ……

2018/04/24

見ている側はテレ朝の「強い意思」を期待していた

 口調や声は、心の奥にある考えや感情を反映しやすいと言われる。同じ言葉でも、言い方一つで与える印象はガラリと変わる。公表した理由を問われても「当社として看過できない状況」と、篠塚氏はさらりと言ってのけてしまう。会見中「抗議する」「看過できない」「遺憾」と強い言葉を何度も口にするのだが、その度に口調も声のトーンも変わらない。そのため社員がセクハラで傷つけられたというのに、憤りや怒りといった感情の動きが何も感じられないのだ。社としての思惑や抱える事情からなのか、どこか仕方なく会見を開いたという感じすらしてしまう。篠塚氏の会見が、そのままテレ朝の企業イメージに影響を与えることなど、十分わかっていたはずである。

六本木にあるテレビ朝日本社 ©iStock

 調査で判明した事実を述べただけと言えばそれまでだが、全体的に淡々とした口調が続くため、財務省に抗議するという確固たる思いが伝わらない。見ている側は、テレ朝の冷静で事務的な対応より、社員の人権を守ろう、守りたいという人間味のある意思や感情を期待していたのではないだろうか。

 そもそもセクハラ被害を受けた当該社員は、相談した上司に二次被害を理由に報道は難しいと伝えられたため、『週刊新潮』に連絡して取材を受けている。音声が公表され、女性記者に関する噂が立ち始めたこともあり、社内調査を始めたというテレ朝。それだけでも批判されている上に、ここにきて事務的な対応を印象付けてしまうのは会社のイメージとしてはマイナスである。

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財務事務次官のセクハラ疑惑を報じた『週刊新潮』

“首を横に振る”篠塚氏のマイナス仕草

 篠塚氏のちょっとした仕草から、この問題に対するテレ朝の基本姿勢が透けて見えたこともマイナスだった。「当該社員から相談があった時、配置換えなどの手を取ったのか?」という質問に、「個人の特定につながる」と答えなかった篠塚氏だが、「心理的な負担を考えて?」と聞かれながら無意識のうちに首を横に振り、「何か手をとったのか?」と聞かれて、また首を横に振ったのだ。ここで首を横に振られると、何も答えずとも、セクハラを受けた社員の心まで考えていなかったというのが本意であり、それがテレビ朝日の企業体質と取られかねない。

 個人を守ることより先に、組織としての対応が問題視されていた印象も強い。セクハラ情報がありながらも「適切な対応ができなかったことを反省」と言う度に、篠塚氏が「適切な」という言葉につっかえていたことも、その要因である。ある言葉だけを繰り返しつっかえているのを耳にした時、人は意識せずとも、その言葉に対する強いストレスや緊張、マイナス感情があると感じ取る。立場上、組織としての対応のまずさが露呈し、会見していることにストレスを感じていたのだろう。