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正直に言うと、この時点では私はクマの側の問題というよりも、「何か牧場側の牛の管理の仕方に問題があったのでは」という風に考えていた。
だがその後、事態は思わぬ方向へと展開していく。
最初の襲撃から3週間後の8月5日には、標茶町新久著呂牧野で8頭の牛が襲われ、4頭が死亡し、2頭が負傷、2頭が行方不明になっているのが発見された。
さらに翌6日には上茶安別牧野で4頭が襲われ3頭が死亡、1頭が負傷する被害が出る。
ヒグマによる牛の連続殺傷事件という令和のミステリーは、こうして幕を開けた。
「もう20頭超えたなあ」
8月20日朝。
「おい、ニュースみたか? また牛、獲られたみてぇだぞ」
普段は物静かな赤石正男が珍しく興奮した口調でNPO法人「南知床・ヒグマ情報センター」の事務所に入ってきた。この日、クマによる6件目の襲撃で5頭の牛が負傷する被害が報じられたからだ。
私の肩書きは「南知床・ヒグマ情報センター」の理事長。そして赤石は同センターの業務課長である。
「ああ、昨日ので6件目、もう20頭超えたなあ。この前、標茶町さ行ったときに、檻のかけ方は話したんだけどなぁ」
私がそう応じると、「何やってんだべな」と赤石はじれったそうに呟いた。
「俺たちの話、ちゃんと聞いてくれてないんでないか」
「新しい檻作るって言ってたけど、まだ出来てないかも知れないぞ」
そう言って、二人で顔を見合わせた。