2019年から北海道で66頭の牛を相次いで襲い、2023年7月ようやく駆除されたOSO18…。予想のつかない動きから恐れられた最凶熊はその後どうなったのか? 調査のため堆肥から骨を取り出した人間たちのエピソードを、新刊『OSO18を追え “怪物ヒグマ”との闘い560日』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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有元ディレクターの執念
かえすがえすも残念だったのは、OSOの死体が、それと知られぬままに解体されて既に食肉として流通してしまったことだった。そのため、OSOが何を食べていたのか、なぜ牛を襲うようになったのか、というこの事件最大の謎を解く鍵を失ってしまった。
ただ捕獲者は、わずかにOSOの牙だけは持っていた。その提供を受けた釧路総合振興局から道総研に送り、分析したところ、捕獲時のOSOの年齢が9歳6カ月であったことがわかった。つまり4年前の襲撃開始時は5歳だったことになる。
「解体業者のところにOSO18の骨があるみたいなんです」
NHKの有元ディレクターがそんなことを言ってきたのは、私が退院して一週間ほどが経った頃だった。
退院時、私が有元ディレクターに「せめて大腿骨でも残っていれば、OSOが食ってたかわかるんだけど」という話をしたことは既に述べた。そのときは、「本来、その謎を解くのは私の役割だったはずなのに」という無念の気持ちが自分の中にあった。
その時点で有元ディレクターは既に解体業者に取材していたのだが、翌週、もう一度取材に訪れた。そこで解体された動物たちの残滓を集めた「堆肥」の山の中に、OSO18の骨が埋まっている可能性があることを教えられたというのである。
「ダメ元で堆肥の山を掘ってみようかと思うんです」
「おいおい、大丈夫か? 道総研も解体業者に行ったけど骨は諦めたんだぞ」
「大丈夫です。とにかく時間があるので明日、行って探してきます」
だが、翌日、ホームセンターでスコップや防護服を買い揃え、意気込んで解体場にやってきた有元を見た解体場の社長は、「それじゃムリだよ」と大笑いしたという。
というのも牛糞や、解体後の残滓となった骨や内臓、肉や皮が集められた「堆肥」の山は微生物が投入され、分解を促されている。さらにしっかりと分解するために“切り返し”といって表面の堆肥と下側の堆肥を入れ替える作業が行われるのだが、この作業を行う前の堆肥の表面はカチカチに固まり、スコップなどではとても太刀打ちできない。