空想はどんどん広がっていく。先生の声ではっと授業に意識を戻すまで、心地よく想像の世界の中を飛びまわった。それこそ、あのトンビみたいに。
電子レンジが鳴るのを待つわずかな時間で、フランも森の奥に意識を飛ばす。あの頃の自分の想像と重なりあって、なんだか懐かしく嬉しかった。
想像が形になったときの喜びを知ると…
今はほとんど妄想をしない。妄想ではなく、どうしたら私の頭の中にあるものが短歌や、エッセイや、小説になるかを考えている。閉じた妄想の世界の中でたゆたうのも気持ちよかったけれど、それを形にすることはもっと楽しい。
苦しさや大変さももちろんあるけれど、想像が形になったときの喜びを知ってから、私は妄想の世界に逃げ込むことはなくなった。
悲しみや不安から目を逸らさず、誤魔化さず
『時々、私は考える』は、フランの変化をゆっくり描く。安全地帯から出ようとするとき、痛みや刺激はつきものだ。フランは悲しみや不安から目を逸らさず、誤魔化したりせず、まっすぐに受け止めようとする。その向き合いの姿勢が素晴らしかった。
自分一人の寂しく愛しい世界から、他者とのつながりに向かって苦しみながらも手を伸ばすフランに、きっと勇気がもらえる。
『時々、私は考える』
STORY
人付き合いが苦手で不器用なフランは、会社と自宅を往復するだけの静かで平凡な日々を送っている。友達も恋人もおらず、唯一の楽しみといえば空想にふけること。それもちょっと変わった幻想的な“死”の空想。
そんな彼女の生活は、フレンドリーな新しい同僚ロバートとのささやかな交流をきっかけに、ゆっくりときらめき始める。順調にデートを重ねる二人だが、フランの心の足かせは外れないままで…。
STAFF&CAST
プロデュース・出演:デイジー・リドリー/監督:レイチェル・ランバート/出演:デイヴ・メルヘジ、パーヴェシュ・チーナ、マルシア・デボニス/2023年/アメリカ/93分/配給:樂舎/7 月 26 日公開