今年10月に変わる「開示請求の手続き」
――今年10月から、「改正プロバイダ責任制限法」が施行されます。これにより情報開示の手続きが変わるそうですが、法改正は花さんの事件がきっかけだったのでしょうか。
清水 花さんの死の前から、法改正へ向けた動きはありました。
というのは、現行法が成立したのは2001年。今のようなSNSはない時代です。
――インターネットを使うのはまだ一部の人たちでしたね。
清水 ええ。現行法は今のようなネット社会を想定していないので、誹謗中傷をした相手への開示請求だけで、2回の裁判が必要です。
マンガでは、人妻を中傷した相手に通知が届くまで2カ月ですが、これはとても早く進んだ場合。普通はもっと時間がかかります。
この他にも、現行法にはさまざまな問題があり、改正に向けた議論が進んでいました。ただ木村花さんの事件後、世論に押されて、法改正の動きが活発化したかもしれません。
施行後の実務はより複雑になる可能性
――法改正後は2回の裁判が1回に短縮されるそうですが、他に大きな変更点は?
清水 現状は、開示請求で得られる情報に制限があります。たとえば、電話番号やメールアドレスの開示請求はスムーズにはできないんです。
ところが、新しい手続きではそれらも請求できます。もしTwitterやGoogleが相手の電話番号を把握している場合、それが早めに開示されれば、相手特定までの期間がかなり短くなるといわれています。
――今、海外SNSから情報開示されるまでは、相当な期間がかかるんですか。
清水 はい。海外法人と裁判する場合、まず訴訟書類を先方に送る“送達”をしますが、このやりとりだけで3~4カ月ほどかかります。すると、初回の裁判が始まるまで半年ぐらいかかるんです。
――書類のやりとりだけで3~4カ月。
清水 今までは、その後やっと審議……という流れでしたが、新しい手続きでは、手続きの開始に送達が必ずしも要らないため、約3週間~1カ月程度に短縮できます。それがメリットですね。
さらに、Googleなど一部の海外法人が日本で登記したことが報道されています。この登記があることで、さらに時間短縮が図れる可能性もあると思います。
ただ、どちらにしても改正法施行後でないと、実務の細かい点がどうなるのか、わかりません。
――中傷を受けた人が弁護士に頼まず、自分で開示請求手続きをするのが、より難しくなるかも……という見方もありますね。
清水 はい。手続きの流れはかなり複雑で、申立後に消去禁止命令や提供命令を追加する必要があります。これを一般の方が行うのは、なかなか大変ではないかと思います。
裁判所側には書式を公開する動きもあるようなので、どこまでわかりやすい書式が出てくるかがポイントになります。