娘の死後、母は代理で開示請求ができる?
――129万円の内訳として、母・響子さんが受けた精神的苦痛に対して50万円が認定されました。
この苦痛について、清水さんは「故人に対する敬愛追慕の情の侵害」と訴えたそうですね。《敬愛追慕》の情とは何でしょうか。
清水 木村花さん本人は、すでに亡くなっています。そこで、花さんの代わりに母の響子さんが、誹謗中傷を書いた相手の情報開示請求をしよう……としても、できないんです。
――なぜですか?
清水 開示請求権は「一身専属権」といって、本人だけが請求できる権利です。遺族が相続できるものではないので、花さんが生前、どんなに誹謗中傷で苦しんでいたとしても、本人ではない響子さんは開示請求ができません。
――本人が死亡すると、生前に受けた誹謗中傷については、誰も開示請求ができない。
清水 そうなんです。そこで、判例上「遺族には《敬愛追慕(けいあいついぼ)の情》という権利がある」とされているので、これを使うことが考えられるわけです。
遺族には故人を“平穏”に偲ぶ権利がある
――敬愛と追慕。
清水 《敬愛追慕の情》は、遺族が故人に対して偲ぶ気持ち、たとえば安らかであるように祈ったり、想いを馳せることです。
そして社会通念上、これは「他人に乱されず、平穏に行われるべきだ」という前提があります。
そこで、「死後もなお、故人に向けて投稿された誹謗中傷は、遺族の《敬愛追慕の情》を侵害するものだ」という考え方になるんですね。花さんの死後に寄せられた一部の書き込みについては、そのように主張しています。
――つまり、響子さんは「花さんを死に至らしめた可能性がある、生前の誹謗中傷」については、開示請求できない。でも、「花さんの死後に書き込まれた」あるいは「響子さん自身に向けられた誹謗中傷」に対しては、開示請求ができるんですね。
清水 ええ。花さんの死から2年以上経ちますが、響子さんにはまだ絡んでくる人がいるので、相談を受けることがあります。