セクハラは政治的立場を超えた人権問題だ
記者が取材先で受けるセクハラは、財務省だけの問題ではない。警察や検察などでも、被害に遭った、被害を目撃したり聞いたりした、という話を聞いた。
4月24日付東京新聞朝刊社会面には、同紙の記者が受けたセクハラ体験の一部が掲載されているが、官僚、警察、検察、地方自治体、さらには民間企業など、様々な取材の現場で問題は起きている。安倍政権だから起きた問題、というわけでもなく、民主党政権時代にもあったのではないか。
紙面【一面・他】財務省の福田次官のセクハラ疑惑をきっかけに「人ごとではない」と、メディアで働く女性たちが被害について語り始めている。東京新聞では、有志の記者グループが社内で声をかけ、取材相手からセクハラを受けた経験を尋ねた。ほか 詳しくは本日(4月24日付)東京新聞朝刊にて pic.twitter.com/MLQyXIyXhw
— 東京新聞ほっとWeb オフィシャル (@tokyohotweb) 2018年4月23日
森友・加計問題とは違い、セクハラは政治的立場を超えた人権問題だ。本来、与野党対立型の課題ではなく、問題解決には、政治的立場を超えた協力が必要だろう。それを考えれば、財務省に対するヒアリングも、野党だけでやるのではなく、与党議員にも声をかければよかったと思う。
今回の問題では、与党からも財務省の対応には批判の声も出ている。橋本聖子氏は、財務省の調査のやり方を「国民の感覚とずれている」と批判。また、野田聖子女性活躍担当相は「テレ朝だけの問題ではない」として、メディアで働く女性との懇談会を開いて、自ら聞き取りを行う意向を示している。
ただ、今回の出来事が示しているのは、マスメディアだけの問題ではない。男女雇用機会均等法は、事業者にセクハラ対策を義務付けているが、大手の取引先の担当者からセクハラをされるなど、社外からのハラスメントに対する対応は、企業の力関係などもあり、十分とは言えない状況、という。どのような対策をするかは、まさに政治が考えるべき課題だろう。
また、この問題を女性差別という視点で捉える人たちもいるが、ジェンダーを巡る問題に限定すべきでもないと思う。確かに、被害者は圧倒的に女性が多い。これまで、セクハラは女性差別と不可分の行為だったというのも事実だろう。とはいえ、今後、官庁や企業の幹部になる女性が増えれば、女性次官と若い男性記者の間で、セクハラ問題が発生するといった問題が起きる可能性もある。セクハラは、「女性の人権」に限定せず、性別を超えた人権問題として考える必要があるのではないか。
こういう問題は、与野党対立型ではなく、人権感覚のある人とそうでない人との温度差が甚だしいために、解決が難しい課題なのだと思う。
下村元文科相は一応謝罪したが……
問題にしなければならないのは、冒頭に上げた下村元文科相のような人たちだ。下村氏は講演会で、「確かに福田事務次官はとんでもない発言をしたかもしれないけど、テレビ局の人が隠してとっておいて、週刊誌に売ること自体が、ハメられてますよ。ある意味犯罪だと思う」と発言した。
共産党が報道各社に音声データを提供した後に、ようやく発言を認め、撤回した。音声データという動かぬ証拠がなければ、どういう対応をしただろうか。
一応謝罪はしたが、「『ある意味犯罪』と述べたのは表現が不適切だった」と、表現方法の問題に矮小化している。「犯罪」という言葉さえ使わなければよいわけではない。下村氏の発言や対応に唖然としている自民党議員もいるのではないか。
このように人権に対する感度が著しく鈍く、それなのに権力を持っていたり影響力の強い人たちを、感度の高い議員が協力し合って啓蒙し、説得していく作業が必要だ。これには、むしろ与党の心ある議員が積極的に関わることが大切だろう。野党は、そのような環境作りに努めてもらいたい。