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ヘビをウンチに変えた

 鳥山さんの「Dr.スランプ」は、何の制約もなく原作通りにアニメ化すれば良かったので、それはもう楽なものでした。ただ、せっかくやるなら原作を上回るものを作りたい。「Dr.スランプ」は、鳥山さんならではの抜群のギャグセンスが光る漫画です。私も刺激をうけて制作の人たちとの打ち合わせでは、積極的に「こんなギャグを追加してはどうか」とあれこれ提案しました。でも制作側は「そんな馬鹿な(笑)」と真面目に取り合ってくれなかった。当時はテレビ局にもアニメ界にも、ギャグを理解する人が少なくて苦労した記憶があります。

「Dr.スランプ」では、アラレちゃんが、道端に落ちているピンク色のとぐろを巻いたウンチを棒で「つんつん」とつっつく定番のギャグがありましたよね。でも、アニメの第1回でいきなりそれをやったら絶対に視聴者が「下品だ!」と騒ぎ出すだろうなと。そこで、最初はとぐろを巻いたヘビをつっつく設定にしました。放送回を重ねて視聴者を徐々に慣らしていったところで、ヘビをウンチに変えたんです(笑)。

鳥山明「Dr.スランプ アラレちゃん」第5巻より

 それでもテレビ局には100本近くもの抗議電話が来たそうです。しかも驚いたことに、そのほとんどが40代、50代の男性でした。普段から子供とアニメを見ている母親たちは慣れているけど、たまの休日に子供と一緒に観た父親たちが驚いたのでしょう。

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辻真先氏 ©文藝春秋

 漫画のギャグには旬があるので、続けるのは大変です。それを絶好のタイミングでアニメ化するのも難しい。赤塚不二夫さんの「天才バカボン」ですら、漫画連載時は空前の人気を誇っていましたが、アニメ化の時点では、すでに古びていたので、今ひとつ視聴率が伸びませんでした。とにかく味噌汁が煮えたぎって、吹きこぼれそうなうちにお椀に注がないと冷めてしまうんです。

 その点、「Dr.スランプ」は、1980年に「少年ジャンプ」で連載を開始し、翌年にはアニメ化したので、ドンピシャのタイミングでした。最高視聴率36.9%を記録するなど一大ブームを巻き起こしました。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「手塚治虫と鳥山明の仕事術」)。

 

全文(7000字)では、辻氏が、二人の人柄、作風、仕事ぶり、そして時代背景などを比較しながら、貴重なエピソードを紹介しています。「手塚氏は作家で、鳥山氏は画家」と評する真意とは?