デジタル時代の中で、子どもの身にどんなに不都合な事態が起きているのだろう。長年子どもの格差や社会課題を取材してきた石井光太氏が、全国200人以上の先生にインタビューをし、子どもたちの成育環境から来る<悲鳴>を浮き彫りにした『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓した。いま、子どもたちの内面で何が起きているのか。(全2回の1回目/後編を読む)
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アプリがなければ寝られない子どもたち
――新刊の『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』を読みました。そもそも今なぜ、子どもの「成育環境」や「内面」をとらえ直す必要があるのでしょうか。
石井光太(以下、石井) 現在、ベビーカーに乗っている赤ん坊がスマホを見ている風景は日常になりました。日本では、2歳児のタブレットを含めたインターネット利用率は58.8%に達しています。
ここ数年、コロナ禍もあり、それに拍車がかかりました。ある保育園ではお昼寝の時間にスマホ用の「寝かしつけアプリ」を利用しています。一部の家庭では毎日それを使用して寝かしつけをしているので、そういう子どもはアプリの声で子守歌をうたってもらったり、羊の数を数えてもらったりしないと眠れないのだとか。
もちろん、こういう家庭はごく一部でしょうが、本書で描いたような別の事例も含めれば、わずか数年で子育ての方法や環境に大きな変化が生じているのは明らかです。
私が取材をした京都大学の明和政子教授はこう話していました。
「デジタルの時代に生きる子どもたちの成育環境は、“ホモサピエンスのそれ”ではなくなっています」
ホモサピエンスの成育環境で育たない子どもは一体どうなるのか。その恐怖と不安が、本書の取材をはじめたきっかけです。
――スマホやアプリが子どもを変えているということなのでしょうか。
石井 スマホやアプリだけが原因だとは思っていません。
本書でも書きましたが、未就学児の子どもたちの問題の一つに、体育座りやしゃがむことができない子が増えていることがあります。体幹が鍛えられていないため、そのまま後ろや横に倒れてしまうのです。
原因として、取材した先生が挙げていたのが「ハイハイをしない子が増えた」ということです。赤ちゃんはいろんな障害物のあるところを自由にハイハイしながら育つことで、全身の筋肉やバランス感覚を育てる。それが正しい二足歩行や、その後の身体活動の基盤となる。
しかし、部屋が狭かったり、親が忙しくて十分な見守りができなかったりすれば、自由にハイハイさせずに、「赤ちゃん用歩行器」に乗せて、そこから一足飛びに歩行へと進ませます。これが筋力や体幹を未熟にし、その後の身体活動に影響を与えているというのです。