奈緒は「ひとことで言えば『真っ当な人』」
「ひとことで言えば『真っ当な人』です。役者には、どこか変わっているところをウリにしている人が多いのに、彼女は会えば時節の話題から入り、笑顔を絶やさず、ドラマのロケ先で野菜の値段を見て『ここのお店安い、絶対買って帰ろう!』って嬉しそうに言う。そして何より、演技はピカイチです。今回のこの映画だって、これほど難しい役をこなせるのは彼女しかいなかったでしょう」(TV局プロデューサー)
発端となった「ENCOUNT」のインタビューにおいても、三木監督は〈10年くらい前に脚本を書き始めた頃、10人くらいに主演をお願いしましたが、ことごとく断られました〉と話しているように、今回のキャスティングは受ける側にも覚悟が必要だったはずだ。
アイドルのファンたちが観にくることを想定していたなら…
一方で、ICを希望したのは奈緒だけだったのかという問題も残る。この映画が主に撮影されたのは、2022年の春だという。この年の「ユーキャン新語・流行語大賞」には、「インティマシー・コーディネーター」がノミネートされている。
「性暴力を受ける側の役の奈緒がICの起用を要望したのは当然のことですが、相手役の風間俊介が演じたのは、女性の尊厳を無視してレイプを続けるという非常に難しい役どころで、男性サイドからも要望があってもよかったのではないか。
当時は風間もジャニーズ事務所で、もうひとりの重要な役どころである猪狩もジュニアのグループ『HiHi Jets』の一員。アイドルのファンたちが観にくることを想定していたなら、より細やかな配慮が必要だったのではという声もある」(前出・芸能デスク)
撮影の翌年、旧ジャニーズ事務所が故ジャニー喜多川氏の性加害問題の再燃により“消滅”し、その結果昨年いっぱいで風間は独立。今回の件は、芸能界の“過渡期”に起きていたともいえる。
「今年の春、新潮社の『波』に連載を持つ俳優・高嶋政伸さんのコラムが注目されました。昨年撮影されたNHKドラマ『大奥』で自らの娘に幼い頃から性的暴行を繰り返す徳川家慶役を受けるにあたって、『必ず「インティマシーコーディネーター」さんを付けてください』とお願いした、というものです。
〈制作サイドも最初からそのつもりでいらしたというので、それならばと、この難しい役に臨むことにしたのです〉
そう書かれた文章からは、人柄と、俳優としての度量が伝わってきました」(同前)
ドラマや映画をつくる際の予算の問題、ICの人手不足の問題もあるのはもちろんなのだが、加害役の男性側からの要望があれば、現場はもっとスムーズになるだろう。
思わぬ「評価」から始まってしまった本作の公開。俳優たちの演技の評価が後回しになってしまったのは残念だが、今後の映画業界への指針にもなるはずだ。