帝国ホテル発行の会報誌「IMPERIAL」で11年間にわたって連載した、角田光代氏の掌編小説集『あなたを待ついくつもの部屋』がついに刊行されました。
収められた42編のショートショートは、幻想的な夢の世界を描くものもあれば、現実の夫婦を描いたものもあり、また過去と現在を行き来して語るものも。5ページ弱の紙幅ながら、どれを読んでも心揺さぶられる珠玉の短編集です。
連載完結を記念して行われた、帝国ホテル東京総支配人・八島和彦氏との対談を転載します。(初出・IMPERIAL123号)
インペリアル編集部◎構成
三宅史郎◎写真
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八島 足かけ11年の長きにわたりご連載いただき、御礼申し上げます。お客さまだけでなく、私どもスタッフも毎回楽しみにしておりました。ありがとうございました。
角田 こちらこそありがとうございました。今日は新しく東京総支配人になられた八島さんとの対談を楽しみにして来ました。
八島 2013年の連載第1回は、オールドインペリアルバーを舞台にした「母と柿ピー」でした。私は当時客室予約課にいて、お客さまからの予約のお電話を受ける日々の合間に拝読しました。そして、角田さんの分身のような主人公が登場する前号の最終回「光り輝くその場所」は、東京総支配人として拝読いたしました。
角田 総支配人になるとお忙しくなるのですか?
八島 デスク仕事よりも、ロビーやレストランでお客さまのお顔を拝見するようにしています。コロナ禍に一区切りついて、お客さまが戻ってきてくださり、館内を見て回る機会が多くなりました。
角田 嬉しい忙しさですね(笑)。
八島 お客さまのお気持ちを拝察するということでいうと、角田さんにはずっとお客さま目線でスタッフを描いていただきました。拝読して、「ああ、お客さまはこんなホテルの利用のされ方をしているんだ」と気づきにつながったことが何度もあります。飾り気なしのお客さまの心模様が私どもに伝わってくることがなかなかないものですから、毎回新鮮でした。それにしても、不思議です。お客さまやご家族、周囲の人々、そしてスタッフの心のひだに入り込んだストーリーを、どのように思いつかれるのでしょうか?
角田 大変でした、本当に! 東京・大阪・上高地の3か所を交互に舞台にするという年に4回の連載で、原稿を書き終えて送信すると、折り返し編集者から確認に添えて、次号はどこを舞台にするか連絡がきます。何を書いたら良いか、とにかく思いつかないんです。思いついてプロットが決まれば、2~3日で書き上げるのですけれど……。