※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2024」に届いた原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。
【出場者プロフィール】石渡 朋 横浜DeNAベイスターズ
神奈川県座間市に生まれるも地元愛はゼロ。でもベイスターズを好きになったことにより、神奈川も悪くないと思い始めた今日この頃。麻雀仲間の編集者には野球ばっかりで仕事してるの?と心配されるぎりぎりカメラマン。狙うは逆転サヨナラホームラン。
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冬に離婚をして、猫を連れて実家に帰った。暖かくなってきたなぁと思ったらテレビからは毎晩ベイスターズ戦が流れ出した。ああ、そうだった。こういう家だった。
ある日、麻雀から帰ると、試合後にベンチに残った選手が客席から誕生日を祝われていた。「この牧って選手、24歳だけど老けてるから42歳ってからかわれているんだよ」と母が嬉しそうに話していた。
私の麻雀は負けたけど、ベイスターズは勝ったようだった。
6月、ひと月ほど謎の体調不良に悩んでいた父に癌が宣告された。
原発の肺よりも転移先の脳に20数箇所の腫瘍があり、何もしなければ余命は3ヶ月、治療をしても毎日覚悟が必要とのことだった。
これはきっと無理だな。でも父は生きる気でいる。父の詳しい歴史をもっと聞いておきたかったけれど、もうすぐ終わりだよと言っているようでできなかった。
姉に誘われて久々の野球観戦へ
父が3度目の入院をしている間、姉にベイスターズのシーズン最終戦に誘われた。母も私も父の介護に疲れ切っていて、息抜きに、と神宮球場に足を運んだ。外苑前駅近くのHUBで姉家族と落ち合い、ビールを飲んで球場に向かう。
狭い歩道に充満する高揚感にあてられて、すっかりワクワクしている自分が気恥ずかしかった。野球観戦なんて何十年ぶりだろう。
久々に味わう開放感と楽しさに身をまかせて、立て続けにビールを5杯飲み、気がつけば母の膝枕で寝ていた。
村上という選手が56本目のホームランを打ったらしい。
スワローズの3人の選手が引退の挨拶をしているのを寝ぼけ眼で見ていた。
楽しかった野球観戦の翌月、4度目の入院の間に父は息を引き取った。