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 それに、映画やパフォーマンスがどう観られるかというのは、結局観る人によって違ってきますから、100人観てくださる方がいるなら100通りの届き方になっていいんじゃないかと僕は思っています。

――そう思うようになったのは、10年前のイスラエルでの滞在が影響しているのでしょうか。

 あの体験は、1年間日本以外の国に身を置くことで、自分自身、そして日本人としてのアイデンティティに向き合う時間だったと思います。イスラエルだけでなく、ヨーロッパ諸国を回ってクリエーションを展開するなかで、アーティストとしてどうありたいかということを再認識できました。

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イヨネスコの戯曲と重なる、卓の父・陽二の物語

――今作のオープニングとエンディングには、卓が俳優として参加する舞台劇のワークショップのシーンが配されています。森山さんとしてではなく、ご自身が演じる卓として「演じる」という行為は、難しくはありませんでしたか?

 あのシーンは、卓という存在をキャラクター付けするという意味で、非常に重要でした。劇団Qという実在する劇団を主宰する市原佐都子さんに僕が演じる卓が参加しているという設定で、本当に1日だけのワークショップを開催してもらい、それをドキュメンタリーのように撮影してもらいました。

 演じている作品は、ウジェーヌ・イヨネスコの『瀕死の王』という戯曲です。自分の死を目前にした老王・ベランジェ1世が、どんどんいろんなものを剥がされていく物語で、卓が直面する老父・陽二との関連性を示唆するものであったり、俳優である卓が戯曲上のキャラクターを演じるという要素が含まれていたり、いろんな入れ子構造になっています。作品のなかでもかなり重要なシーンになったと思っています。

森山未來さん。

――リアルなワークショップだったのですね。

 あのシーンに関しては、脚本は一切なく、ワークショップ内のどのシーンをどういうふうに切り取るかも事前に決まっていませんでした。だから市原さんと対話しながら、実際にイヨネスコの『瀕死の王』を創りあげていきました。