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「人生は間だよ。間。一本調子だと、うまくいかない」

「当時の共産党は四分五裂で離党者が相次いだ。警察のスパイ扱いされ、党査問委員会の過酷な追及で自殺したり、正気を失った同志も出た。陰惨な季節である。私は火炎ビンを投げてアメリカ占領軍、吉田内閣の巨大な風車に突進したが、はね返された。阿呆の典型である。われ笛吹けど、大衆踊らず。無告の民は生活に追われる毎日だった」(『オヤジの知恵』)

 結局、離党した早坂は、新宿界隈で酒を食らい、赤線で遊ぶ日々を送る。そんな中、寄席に通って、古今亭志ん生や桂文楽の芸に聞き惚れたという。

「私が感心したのは、師匠たちの絶妙な間の取り方である。パンパンと話を拡げて、一瞬の沈黙があり、観客が息をひそめた途端、舞台が変わって客席が沸く。センテンスが短く、たたみ込む調子で客を引き込む。千変万化の抑揚はリズム感に溢れ、何の抵抗もなく、客を江戸の下町情緒へ誘い込んでくれる。この寄席通いは、後年、私の演説や講演に測り知れない影響を与えた」(同書)

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 当時の共産党は、機関銃のように政府や財界を罵倒、批判するのが目立った。甲高い声で、相手を吊るし上げる女性党員もいた。そして、国民は潮が引くように離れていった。

 言葉は悪いが、蓮舫氏の国会での質問、演説から似た印象を受けてならない。われ笛吹けど、大衆踊らず。今、それを最も痛感しているのは彼女ではないか。

©文藝春秋

 これを乗り越え、自己改造するため、しばらく政治から離れ、寄席通いしてみてはどうか。かつて早坂がそうしたように。そして、その早坂の過去を承知の上で、秘書に採用したのが田中角栄だった。田中は、こうも言っていたという。

「人生は間だよ。間。一本調子だと、うまくいかない」(一部敬称略)

田中角栄の悲劇 (知恵の森文庫 t と 3-1)

徳本栄一郎

光文社

2018年5月9日 発売