TBS金曜ドラマで放送されている「笑うマトリョーシカ」が、謎が謎を呼ぶ展開で、話題となっている。未来の総理候補とされる清家一郎を操る人物は誰なのか、という疑問に加えて、視聴者、読者の話題となっているのは、国民から絶大な支持を受ける清家という人物がホンモノか、ニセモノか、というところだ。原作者の早見和真が、「清家一郎」についての思いを綴った。

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 正直に記せば、少し勇み足かなという気持ちもあった。『笑うマトリョーシカ』文庫化に際しての、「担当編集者より」というコラムにある文言だ。

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「(早見さんは小説の主人公を)『櫻井翔さんをイメージして書いていた』ともおっしゃっていました」

 ウソではないが、おそらく言葉は足りていない。

 本を読んでくださった方には真意が伝わるという確信があったけれど、そうでない方々にはどう捉えられるだろうという不安があった。

『笑うマトリョーシカ』の小説上の主人公・清家一郎は、二十を超える自作の中でもトップレベルで思い入れのあるキャラクターだ。

 周囲の人間を惹きつけてやまない、しかし心の内を簡単には探らせない。いつもやわらかい笑みを浮かべていて、勝手にこちらがその人間性を深読みしてしまう。

 そんなイメージをずっと持ちながら、いざキャラクターとして立ち上げようとしたとき、具体的な姿をなかなか思い描けずにいた。

夜のニュース番組に出演する、ある人物を見た時に

 物語の大枠も頭にあった。しかし、肝心の主人公像に一向に芯が通らない。何日も、何日もパソコンに向かい続け、いい加減ウンザリしかけていたある日、ふとつけたテレビに、夜のニュース番組に櫻井さんが出ているのを見たとき、天啓を得た気がした。

 清家一郎と櫻井さんが似ているわけではない。

 そもそも櫻井さんの実際の人間性を知る立場でもない。

 僕が感じ取ったのは、櫻井翔というタレントの持つ完璧なパブリックイメージだ。経歴も、実績も、振る舞いも、言葉も、ほぼすべてにおいてパーフェクトというイメージと、それが好悪どちらであったとしても極めて一方的な世間の目。

「もしこの人が胸に○○という思いを秘めていたらおもしろいな」

 だからといって櫻井さんをイメージして書いたわけではないけれど、そう思ったとき、清家一郎というキャラクターに魂が宿ったのは間違いない。

 ドラマチームの監督、プロデューサーとはじめて顔を合わせた日、隠さずにその旨をお伝えした。

 のちに櫻井さんに決定したと聞いたときは、しみじみと喜びが込み上げた。 

代議士・清家一郎と秘書・鈴木俊哉は総理の座を目指している。