東京から1400キロ余り離れた北海道枝幸町(定数12)。当選7回、在職27年のベテラン議員はなぜ10年間、議会で何も質問しないのか? その驚きの言い分を、全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、NHKスペシャル取材班による新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

写真はイメージ ©getty 

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「どうして質問しないんですか?」

 単刀直入にこの男性に尋ねた。バツの悪そうな表情をするのかと思いきや、当然と言わんばかりの態度で、「質問するという強い思いはない」と言い切るのだ。

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 主張はこうだ。そもそも議員とは町民の意見を行政に届ける橋渡し役である。それぞれの住民の意をくんで、利害の調整を図ることが仕事だという。つまり、この男性は町内に持つ幅広い人脈を使い、いわゆる“根回し”を展開するわけだ。彼によれば、議会で質問しなくても、町政は円滑に進むという。

 話を聞けば聞くほど、疑問は出てくる。そもそも、全国町村議会議長会が発行する議員の心得を記した指南書『議員必携』には、「議会での発言こそが議員活動の中心」と書かれている。「議会での質問」こそが、大事な役割の一つのはずなのだ。

「質問回数ゼロ議員」の言い分

 その役割を放棄してどのような政治活動をしているのか。ある日の活動に密着することを許された。

 男性が出かけたのは、町内の温泉施設にある一室。そこには、数名の高齢の女性たちがいた。女性たちは、長年男性を支援している住民だ。

「これだけはしてほしいんだっていう、町に要望みたいのない? そしたら、そういう話は俺が持って行くようにするから」。男性はそう言って、女性たちから、町の中にある困り事を聴取していった。

 女性たちから「ここは港町で魚介類の加工場も多いけど、冬が半年休み。もう少し長い期間仕事あればいいな」とか、「冬の間吹雪とかあるでしょう。そういう時に、夜中、除雪するんですけど、昼間全然してくれない。吹雪の間だけでも昼間に除雪してほしい」などといった要望が、矢継ぎ早に上がった。

 要望を聞いた男性が、その後向かったのは町役場。予算の立案を担う町の総務課長を呼び出した。

「やっぱり町が寂れていってるんじゃないかという話なんだわ。冬に仕事がないというのが一番のネックになってるんじゃないかと。常時、枝幸に残って仕事につけるっていうものがなければ、若い人たちの定住というものが難しいんでないかということを訴えてたね。それと除雪、常にしてもらいたいと。一人世帯になってきてる人が非常に多いということもあって、大変だということなんだわ」

 要望をひとしきり聞いた総務課長は恐縮した様子で次のように答えた。