「本来、議会という公開の場で議論すべきことが議論されない、ということがよくある。首長とボス議員が見えないところで色々決めてしまうのです」…それにもかかわらず、地方政治から「ボス議員」「ドン」と呼ばれる存在がいなくならない理由とは? 全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、NHKスペシャル取材班による新書『地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

健全な議会運営から遠ざかるにもかからわず、地方政治から「ボス議員」「ドン」が消えない理由とは…? 写真はイメージ ©getty

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議論が活性化しない理由

 自由記述欄からは、地方議会のキーマンとも言える存在が浮かび上がった。「ボス」や「ドン」と形容される議員の存在だ。アンケートでは、「ボス」や「ドン」についてこのような記述があった。

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〈議会の活動の中でも他の議員がボスに気をつかっている様子もわかる。特に職員や首長はボス議員に気をつかっていることは明白で、これが町の施策をゆがめている原因の一つでもある〉(60代・男性町議・近畿)

〈議員に「ボス」が生まれ、彼が執行部とグルになって議長などの役職を決め、それを選挙せずに押し付けてくる。反対するといじめられる。発言を封じられる〉(70代・男性町議・関東)

「ボス」や「ドン」と呼ばれるような「大物」議員は、実は自治体の規模に関係なく、よく存在する。必ずしもこのような議員が、一律に批判されるべきだとは思わない。当選回数を重ね、行政についての専門知識や経験を身につけた議員が議会の中で指導的な立場に立つのは自然なことともいえる。

 一方で、議会のボスについて前出の江藤教授は、次のように指摘する。

「本来、議会という公開の場で議論すべきことが議論されない、ということがよくある。首長とボス議員が見えないところで色々決めてしまうのです。ボス議員が誕生する背景として、まず首長の側から見ると、ボス議員と話をつけた方が、色々物事が進めやすいというメリットがあります。また、ボス議員にとっては、情報や権限が集まり、ほかの議員より優位に立てるので、ボス議員の周りに議員や役所の職員が集まってくるという流れができます」

 行政側は予算や議案に議会から注文がつくことは避けたいと考えることが多いようだ。そんなときに、ボス議員の存在は、ありがたいというわけだ。先に紹介した、倉吉市で市長も市議もつとめた長谷川稔はこう証言する。

「ボス議員がいれば、議員一人一人と向き合わなくてもよくなるので、首長にとっては助かる。議会と宴会がなければ首長の仕事はだいぶ楽になるはずですよ」