九里亜蓮を取り巻く状況に九里亜蓮自身は満足しているか
ところで我々は、九里亜蓮にどのような印象を抱いているだろうか。2014年の開幕第2戦でルーキーながら先発勝利をおさめ、1952年の大田垣(のち備前)喜夫以来62年ぶりの新人投手開幕カード勝利と話題になった九里亜蓮。そのまま先発ローテーション入りするかと思われたが、「先発予定が続けて雨で流れる」「好投しても打線の援護がない」という不運も続き、1年目は20試合の登板で2勝5敗。その後も先発を務めたかと思えばロングリリーフを任されるという起用のされ方で、現在ではいわゆる「便利屋」のイメージが定着している。大きなケガもせず精神的にもタフそうな姿を見て、ファンも「九里亜蓮ならどこでも投げてくれる」と思ってしまっているのではないだろうか。
しかしその状況に九里亜蓮自身が満足しているかと言えば、本人は一貫して「先発として勝負していきたい」と語っているのだ。一方で、繰り返し「与えられたところで投げるだけ」とも語る。それは、置かれている状況を自らに納得させる言葉のようにも思える。
2017年も九里亜蓮を取り巻く状況は同じだった。4、5月には先発で4勝を挙げるも、離脱していたジョンソンの復帰により6月からは中継ぎに、更にジョンソンが左太もも裏を痛めて再び離脱した7月には再度先発に、と目まぐるしく先発と中継ぎを行ったり来たりした。しかし昨年は88勝のうち41勝が逆転勝ちという「逆転のカープ」。ビハインドで登板した九里亜蓮が投げている間に打線が逆転することも多く、9月には何と1週間のうちに3勝を挙げ、結果として9勝5敗という過去最高の成績を残した。この勝ち星は、野球の神様から九里亜蓮への功労賞のようにも思えてくる。
電光掲示板にも「九里亜蓮」の表示を
今シーズンも開幕から5度の中継ぎ登板を経て、4月17日に呉で行われたヤクルト戦に先発。3回1/3を投げて4失点で降板し、翌日に一軍登録を抹消された。しかし5月6日に再びヤクルト戦に先発すると、7回を1失点に抑える力投を見せ、多くのファンの心を動かした。今後九里亜蓮は本人の望み通り、先発ローテーションを守り抜けるのだろうか。
ここで一つ提案がある。九里亜蓮はいっそのこと、スコアボードの表記をフルネームにしてはどうだろうか。他球団では原樹理(ヤクルト)や金子千尋(オリックス)、髙橋光成(西武)などが導入している。フィオレンティーノ(元カープ)は表示できなかったマツダスタジアムのスコアボードだって、「九里亜蓮」の4文字ならば余裕で入る。総画数も「會澤」や「大瀬良」と並ぶ29画となり、威圧感も生まれる。
九里亜蓮本人も以前「自分は『九里』より、『アレン』って呼ばれる方がうれしいです(笑)」(『別冊カドカワ 総力特集 広島東洋カープ2014』)と述べていることから、恐らく本人が重きを置くのは「クリ」より「アレン」部分であり、これを登録名に組み込まない手はない。むろん名前の「亜蓮」のみを登録名とする、という方法もなくはない。しかしながら「カープのアレン」と言われると、中高年ファンは大門和彦をハマスタの外野まで追いかけ回す姿を真っ先に思い浮かべてしまうので、なかなか難しい。
それよりは皆がついフルネームで読みたくなる「九里亜蓮」を表示することにより、スコアボード上で圧倒的な存在感を示すと同時に、そのフルネームは口々に伝えられて人口に膾炙するようになるだろう。そうすればマウンド上で吼える姿とともに「九里亜蓮」は多くの人々の印象に残り、より一層の活躍ができるのではないだろうかと考えるのである。
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