去年2軍で9試合防御率10.36だった男の快進撃が止まらない。アドゥワ誠19歳。4月4日に1軍デビューを果たした彼はヒットを許しランナーを出すものの、タイムリーは許さない不思議なピッチングを続けている。無失点に抑えてしまうのである。それが1試合2試合ならまだしも4試合5試合を越えついに10試合に達してしまった。11試合目でプロ入り初の自責点が付いたものの、これまで13試合に登板し(※5月11日現在)16回を投げて被安打14、四球9、死球1。数多くランナーは出すが自責点はわずか1。防御率は0.56。驚異的な数字を残している。

 最近の登板はチェンジアップが冴え、ストレートが低めに決まるなど大器の片鱗を見せ始めているが、デビューして数試合は変化球の制球に苦しみ四球を連発するなど点を取られないのが不思議なくらいの内容だった。それでも無失点でイニングを投げ切ってしまう姿は現在ヤンキースの主戦として活躍する田中将大のプロ1年目に似ている。打たれても打たれてもなぜか負けが付かない。野村克也監督は「マー君神の子不思議な子」と田中を表現したが、この言葉は今のアドゥワにピタリと当てはまる

「アドゥワ神の子不思議な子」なのである。しかし、厳しいプロの世界。ラッキーでピンチを何度も切り抜けられる訳がない。アドゥワには田中将大に匹敵するどんなピンチにも動じない強い精神力が備わっている。

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ここまで13試合に登板して防御率0.56のアドゥワ誠

精神力の強さは父・アントニーさんの教えから

 アドゥワは熊本県出身。ナイジェリア人の父・アントニーさんとダイエーで活躍したVリーガー母・純子さんの次男として生まれた。小学1年生から「熊本中央リトル」で野球を始め、中学生までこのチームでプレー。高校は地元熊本の高校ではなく親元を離れ愛媛県の松山聖陵に進んだ。それまで甲子園出場経験がなく全国的には無名。県内強豪校の一つでしかない学校をなぜ選んだのか? 当時アドゥワはこんな話をしてくれた。「とにかく父が厳しくて……父から逃げたかったんです」。

 ナイジェリアから日本に来て家庭を持った父・アントニーさん。グローバルな社会になったとはいえ、言葉の違いや、肌の色の違い、これまで想像を絶するような苦労があったのだろう。息子にはそれを乗り越えられる強い人間になって欲しいと、褒めることをせず「社会の厳しさを知りなさい。自立した人間になりなさい」と口酸っぱく語っていたという。親元を離れたアドゥワは、野球を通じ、持ち前の明るさとガッツでその壁を乗り越えていった。