開幕から順調に勝利を重ねる好調カープ。鈴木誠也を欠いても下水流・野間がカバーするなどリーグ3連覇に向けて素晴らしいスタートを切った。さらに勝敗はつかなかったが開幕5戦目で高卒2年目期待の高橋昂也がデビュー。若手の台頭もありチームは勢いに乗っている。そんななか、面白い存在の投手がベールを脱いだ。高卒2年目のアドゥワ誠だ。

 身長196cm体重83㎏。広島投手陣の中で最も高身長な彼は名前からも分かるとおりナイジェリア人の父を持つハーフアスリート。2016年のドラフト5位でカープに入団した。武器は恵まれた体格から繰り出す角度のあるストレートと大きなカーブ。チェンジアップを上手く織り交ぜる器用さもある。しかし多くのカープファンや専門家は体の線が細い事やストレートの最速が140㎞中盤ということから彼は「素材型」の選手で1軍デビューは早くても3年はかかるだろうと見ていた。現に1年目は2軍で9試合に登板し0勝2敗。防御率10.36とひどく打ち込まれた。そんな投手がプロ2年目の今年、初めて1軍でキャンプを過ごし中継ぎのサバイバルレースを制し開幕1軍の切符を手に入れた。驚くほどの成長を見せたのだ。

中継ぎのサバイバルレースを制し開幕1軍の切符を手に入れたアドゥワ誠

アドゥワの意識が変わった高2の夏

「入学してきた時はプロなどまったく考えていなかった」という松山聖陵高校の荷川取秀明監督。1999年沖縄尚学の1番サードとして沖縄県勢初のセンバツ優勝を果たしたメンバーで筑波大学でもベストナインに選ばれるなどプレイヤーとしても活躍した人物だ。入学時のアドゥワの身長は191cm体重61㎏。中学時代のポジションはヒョロッと背の高い細身のショートだった。「その学年に投手がいなかった」という理由で上背のあるアドゥワを投手にコンバート。とにかく細くて体力のなかったアドゥワに1日5食の課題を与えた。朝は白米500g、夜は1000g。間食も自ら握ったおにぎりを食べさせた。

ADVERTISEMENT

 高校1年生の秋から公式戦のマウンドに上がるようになったアドゥワだが球速は130キロ前後と力のある投手ではなかった。体重増加と共に最速が140キロに迫ってきた高2の夏。アドゥワにとって運命の試合を迎える。第97回全国高校野球選手権愛媛大会2回戦。松山聖陵は第4シードとしてこの大会に臨んだ。対戦相手は八幡浜。松山聖陵にとっての初戦である。先発は165cmの小さなエース日野。どんな時でも強気にストレートを投げ込み黙々と練習に取り組む1学年上の先輩をアドゥワは心から尊敬していた。

 試合は接戦となり3-1松山聖陵リードで迎えた最終回。日野がつかまり1点差に追いつかれ1アウト3塁でアドゥワがリリーフのマウンドに向かった。「先輩と共に甲子園に行きたい」といつも口にしていたアドゥワ。代わって1人目を三塁ゴロに打ち取るも次の打者にタイムリー3ベースを打たれ同点。さらに次の打者にレフト前タイムリーを浴びてサヨナラ負け。まさかの初戦敗退を喫した。「先輩に申し訳ないことをした」。アドゥワは高校入学後初めてグラウンドで涙を流した。さらにエース番号を背負って臨んだセンバツのかかる秋の県大会。地区予選の初戦で新田に打ちこまれ10-1の大差で敗れてしまった。

「あの試合をきっかけに練習に取り組む姿勢が変わった。ひょっとすればこの子はプロになれるのではないかと思い始めた」と荷川取監督。それからのアドゥワは「白米を吐くまで食べた」と振り返るように本気で肉体改善に取り組んだ。朝500gの白米。昼食も白米、練習の前、練習後はおにぎり。そして夜に1000gの白米。1日5食。ハードなトレーニングに加え食トレにも妥協なく取り組んだ。

 入学時から20kg近く体重が増えた高3の春。練習試合解禁日となった初戦。アドゥワが目を見張る投球を披露する。香川の強豪英明に対し最速143キロの直球で押しまくり13奪三振のノーヒットノーランを達成。プロ注目の存在となった。そしてその夏。松山聖陵を初の甲子園に導き、松山聖陵初のプロ野球選手となった。