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ミステリマニア、栗山英樹監督の著書からファイターズの謎を強引に解く

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/24
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「根本陸夫になりませんか」の謎

 2012年の著書『覚悟』を見てみましょう。《次期監督候補として最初に「栗山英樹」の名前が報じられたとき、あちらこちらで「まさか……」という声が上がったと聞くが、それも無理はない。誰よりも驚いたのは間違いなく自分自身だったのだから。》《いざ球団関係者に会って、実際に話を聞いてみると、ファイターズはどこまでも本気だった。そして、客観的に聞けば「栗山新監督」の根拠にも十分な説得力はあった。》《しかし、かといってその日、僕が球団の話をすべて客観的に聞けていたかというと、そんなわけがない。新チームの構想を熱く語る彼らの言葉のなかには、何度も自分の名前が出てくるのだ。》いたって率直に振り返っているように見えます。しかし。

 この2冊の間に、実はこんな言葉があるのです。2016年、日本一を勝ち取った翌日、10月30日の日刊スポーツです。《ヨシからファイターズの監督のオファーが来た時、断れないと思った。2年前くらいにあった、もともとの打診は監督じゃなかった。「根本陸夫になりませんか」って言ってきたんだ。》

「ヨシ」とは吉村浩GMのこと。《次期監督候補として最初に「栗山英樹」の名前が報じられたとき》つまり2011年秋に《誰よりも驚いたのは間違いなく自分自身だった》という記述を素直に読めば、その時初めてオファーがあったのだと思うでしょう。しかし実は《もともとの打診》が《2年前くらいにあった》訳ですね。

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 根本陸夫になりませんかとは何とも意味深長な言葉です。GM職の打診なら端的にそう言えばいいだけなのですから。件の日刊スポーツの記事は根本氏についてこう注釈しています。《西武、ダイエーでは実質的なGMの役割を務め、さまざまな手法で選手獲得、チームを強化した。》……さまざまな手法、とはまた随分と簡単に一言でまとめたものですが、詳しく説明していたらとても注釈の分量ではすまなくなるし、とにかく本当にとてもさまざまな手法だった訳で、わざわざその名前を出してオファーをした吉村GMは、一体どんなさまざまなことを栗山英樹にさせようとしていたのでしょう。大リーガー養成ゲタの開発か(それは『がんばれ!!タブチくん!!』のネモト監督)。いや、そもそもこれは果たして過去形なのでしょうか。

その昔、ファイターズから「根本陸夫になりませんか」というオファーがあった栗山監督 ©文藝春秋

吉村GMの目論見は一体……

 件の記事で《表には出ずベールに包まれている》と書かれた吉村GM。そういえば前任の山田正雄氏・高田繁氏のように雑誌等にインタビューが載ることもありません。表に出る役割は木田優夫GM補佐の受け持ちです。そしてこの記事を書いた高山通史氏は現在ではもう日刊スポーツの記者ではなく、何とファイターズの球団広報という立場になっているのです。うっかり口を滑らせた一言を拾われたりすることの二度とないように、内部に取り込んでしまったのでしょうか……!

 22日、マリーンズ石川歩投手に手も足も出なかった試合をテレビで観ていたのですが、鶴岡慎也がゲッツーを打っちゃったあとに映ったベンチの栗山監督の顔が印象に残りました。序盤にビハインドになって、その後ずーっとその状況が変わらなかったのですから、笑顔が出ないのはまあ当然なのですけれども、じゃあ浮かない顔をしているかというとそうではなく、怒っているのでもない。つまり無表情なんだろうと言われそうですが、表情が「無い」のではないんですね。「読めない」んです。「読ませない」のかもしれない。

 この人の頭の中には一体何があり、そして吉村GMは何を目論んでいるのでしょう。くれぐれも注意を怠ってはなりません。皆様、心してファイターズを見詰め続けましょうぞ。

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