傑作映画に共通するのが、“脇役陣”の充実だ。

 公開中の『孤狼の血』は役所広司や松坂桃李といった物語の中心人物だけでなく、ピエール瀧や音尾琢真ら強烈な個性派が脇を固めていた。白石和彌監督は彼らの良さを潰し合うのではなく、活かし合う。結果、映画全編を通して観客を退屈させない緊張感を持続させることに成功している。

 これはプロ野球も同じことだ。魅力的なチームは主役はもちろん、実力派バイプレーヤーが充実。だから、2018年の巨人の試合を面白いと感じるファンは多いのではないだろうか。キャプテン坂本勇人が中心にいて、若い吉川尚輝や岡本和真がスタメンで活躍し続け、助っ人のゲレーロやマギーがクリーンアップを組む。かと思ったら、正捕手の小林誠司が着実に成長。さらに恐怖の下位打線を組む30代中盤の亀井善行や長野久義も存在感を見せる。往年の代打の切り札ウルフ由伸から“孤狼の血”を継承した阿部慎之助も健在だ。数年前まで、主役を張っていた彼らベテラン陣が脇役をできるからこそ、今の巨人は見ていて楽しい。

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 そして、投手陣では将来のエースを期待された男が、中継ぎ投手として奮闘している。プロ8年目、26歳になった宮国椋丞である。

将来のエースを期待されていた宮國椋丞 ©文藝春秋

同僚選手も期待した、あの頃の背番号30

 先日、7月10日発売のプロ野球死亡遊戯ベストコラム本収録記事選定のため、ブログ過去記事を読み返した。そこで頻繁に登場するのが、貧打の救世主って感じで来日したらその本人が一番貧打だった…というコントみたいな懐かしの助っ人アレックス・カステヤーノスじゃなくて、若き日の宮国椋丞だ。特に巨人が五冠達成した2012年はとにかくみんな背番号30の話題で盛り上がっている。「桑田真澄以来の高卒生え抜きエース誕生」「いつかダルビッシュのような右の先発に」「巨人では珍しい正統派イケメン」「ボウカーよりもっと宮国記事書いてください」「あ、すいません」なんつってコメント欄で真剣に議論。まだ菅野智之の入団前で、みんなこの男の未来に夢を見ていた。

 「凄いピッチャーがいるって噂聞いて、ジャイアンツ球場のブルペンまで見に行きましたからね」

 以前、イベントで共演した巨人OBが新人時代の宮国について、懐かしそうに語っていたのをよく覚えている。ファンだけじゃなく、現場の選手や首脳陣も期待せずにはいられない琉球の逸材。沖縄糸満高校から10年ドラフト2位指名されると、2年目の12年4月8日の阪神戦で1軍先発デビュー即初勝利。5月1日の広島戦ではプロ初完投・初完封勝利を記録。途中離脱するも6勝を挙げ防御率1.86という好成績を残し、3年目の13年にはチームでは88年の桑田以来となる20歳の若さで開幕投手に抜擢された。まさに理想的なキャリアである。少なくとも、ここまでは。

2013年には20歳の若さで開幕投手を務めた宮國 ©文藝春秋

ハタチの開幕投手が便利屋の中継ぎ投手へ

 いつの時代も、夢の終わりは儚い。故障に苦しみ、やがて30番の肉体が躍動するしなやかな投球フォームは消え失せ、14年にはわずか3試合の登板に終わり、当時の原監督もスポーツ報知紙面で「もっと野生的にゴーヤを育てるようにすれば良かったかも。彼は繊細だから、こちらも気をつけて大事に高級マンゴーのように扱ってきたからな」となんだかよく分からないゴーヤ宣言。15年と16年は中継ぎで30数試合投げ防御率2点台後半とまずまずの成績を残すが、昨季は久々の先発抜擢も開幕から7連敗を喫し、オフに1日最大6食の増量計画で体重を増やした。

 ハタチの開幕投手も、気が付けば26歳だ。今季は中継ぎとしてチーム最多の16試合に投げ、勝敗は付いていないものの防御率1.27(24日現在)。時に敗戦処理もいとわない便利屋投手。正直、過去の期待値を考えたら今の宮国の脇役的なポジションを物足りないと思うファンも多いかもしれない。だが、こういう役割をやる投手がいなきゃ長いペナントレースは戦えないのも事実だ。もしもこの男が離脱でもしたら、誰が代わりを務められるのだろう? 映画もプロ野球も全員が主役なんてありえない。