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今年はなにを取りこぼす? 広島のクリフハンガー的戦い

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/26

 オフシーズンのプロ野球選手出演番組内での腕時計お値段公開コーナーはまじでいらんと思っている同志の皆さま、こんにちは。時計より使用グローブやバットを見せて欲しいなあ。

 先日、とある球場から駅への帰り道のこと。相手方のファンの女性がものすごい勢いで「どうせカープファンなんかまた弱くなったら球場に来なくなるよ」とお連れさんに話していた。それを横で聞いた私は「ほうじゃなあ。カープ側がガラガラになる日はあるかもなー」と旧市民球場を思い出していた。

 弱くなったらカープファンは離れるというその予想は、ちぃと間違うとるんです。おそらく。観客動員数が減るとしたら、それは。

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カープファンで真っ赤に染まったマツダスタジアム ©文藝春秋

 広島東洋カープは毎年何かを取りこぼしている。25年ぶりの優勝、しかし日本一になれず、と言えば ああと納得していただけるだろうか。昨シーズンの2連覇して迎えたCSを思い出す人も多いと思う。日本シリーズに行けなかったあの秋はずっと心の悔しさボックスに残っていてきっと消えない。時々びっくり箱のように熱湯のまま飛び出して来るので自分でも驚く。

 初めてCSに出ることができたシーズンも思い出してほしい。16年ぶり(!)のAクラス、やっとやっとCSに! そしてなんとファーストステージ突破して! 巨人に負けた。下剋上ならず。

 二度目のCSではファーストステージで阪神に負けた。12回0-0引き分けでの敗退。
そして次のシーズンは疑惑のホームランもあり0.5差で4位。マエケンと戻ってきてくれた黒田投手が揃った年だったのに。

 25年ぶりの優勝は全球団に勝ち越した完全優勝だったにも関わらず日本一を獲れず、2連覇では横浜に負け越して完全優勝ではないうえにCS敗退。課題を次のシーズンにまわしていくスタイル。

2年連続で日本一を手にすることができなかった ©文藝春秋

カープは海外ドラマである

 私はアメリカのドラマが好きでよく観るのだが、そのドラマの多くはシーズンの最終回では次のシーズンに引っ張るいわゆるクリフハンガーを思いっきりかましてくれる。何かの事件が最後に起こり「最終回でこれ?」と解決できないもやもやを視聴者に残し、そのまま次のシーズンまで待たせるのだ。カープは毎年それをやっている。

 海外ドラマは打ち切りも多い。クリフハンガーかましたあげく、続きが無い作品も多々ある。ひどい。謎のまま放り投げられる。野球は必ず毎年続いてくれて有難い。続きが必ずあるのだ。

 カープは1975年に初優勝を飾った。戦後焼け野原からの球団設立、資金難身売り万年最下位をよろよろと越えての初優勝は有名なエピソードなので私が書くまでもないのだけど、本当にカープファンが願って願って願った初優勝だった。生前応援しながら初優勝前にお亡くなりになった方の遺影を抱えて優勝パレードに泣きながら並ぶ人たち、どれほど広島県内が真赤に染まったか当時小学生の私もはっきり覚えている。が。

 次の年がっくりと動員数は落ちる。さらに次の年も。

 初優勝から17年の間、広島は6度優勝している。日本一にも3度。黄金期だ。なのに何度も動員数は100万人をきっている。旧市民球場は空席があった。

 V5の頃、東京に出てアニメーターになっていた私には「近くに住んでいたら市民球場に通うのに」と中継や写真で見る選手の後ろの黒さがつらかった。地方だからなあ、とあきらめもしていた。ネットもない時代。そして「広島」と限られたチーム。ファンは少なくても仕方ない、と。

 あれだけ初優勝に熱狂した大勢のひとはどこいったん? なんでこんなにひと来んようになったん? 強いはずのカープの試合は満員にはならなかったのだ。なんですかねえ、強いと「自分が応援しなくても勝つじゃん」となるのかな。

 あの「強くても満員にならない市民球場」を覚えている関係者は、現在どの球場でもカープ側が満員になれどこわくて仕方ないのではないかと思う。強い=ファンが集まるではないことを知っているから。

 何故集まったのか。何故集まらなくなったのか。答えがあるようでない。

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