「損切り」は必要なのか?

 こうした経験をしてきた筆者から見て疑問に思うのが、リスク管理のための「損切り」です。今回の暴落を受けて多くの専門家が、「いったん損切りして底値を確認してから入り直せ」とアドバイスしています。このアドバイスは、正しいのでしょうか。

 たしかに、「買い値から2割下がったらいったん損切りする」といったルールを作り、逆指値の売り注文を出しておけば、資産が大きく減るリスクを避けることができます。大手運用機関には必ず損切りルールがあり、ファンドマネジャーは厳格に順守しています。

 個人投資家でも、短期投資をしているなら、損切りルールを設定し、守るべきです。とくに信用取引をしている場合、損切りルールを徹底しないと、今回のような暴落相場で大きな損失が出て、一発退場に追い込まれてしまいます。

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損切りしてはいけない人の特徴

 では、投資信託の積立投資や個別株の長期投資をしている大多数の個人投資家は、どうでしょうか。

 まず、積立投資の場合、絶対に損切りをしてはいけません。「資産残高=保有株数×株価」。株価が下落したときは、むしろ保有株数を大きく増やすチャンスです。相場の変動に関係なく定額を積み立てるか、逆に投資額を増やしたいところです。

 個別株の長期投資の場合も、基本は損切りをしません。損切り自体は問題ありませんが、その後の「底値を確認してから入り直す」というのが至難の業だからです。

 1000円で買った株が2割下がって800円になったとします。「買い値から2割下がったら損切りする」という自分ルールがあったら、ここで損切りします。その後、どこまで下がっても、損失は200円(=売り値800円-買い値1000円)です。リスク管理としては大正解です。

 ただし、「底値を確認して」といっても、どこが底値だったかは後になってわかることで、渦中ではプロでもわかりません。仮に600円になり、「そろそろ底値かな」と思っても、「さらに下げるのでは?」という恐怖感があり、なかなか売り値より低い価格で買うことができません。

 そうこうしている内に、株価が回復し、損切りした800円を上回り、仮に1000円まで戻したとします。すると今度は「800円で損切りしてしまった…」と、損切りが結果的に判断ミスだったことを認めたくないという心理が働きます。そのため、1000円で買うことを躊躇します。

 つまり、いったん損切りすることはできますが、その後下がっても上がってもなかなか市場に「入り直す」ことはできません。結果的に多くの個人投資家が、暴落をきっかけに相場から離れて、戻ってこないのです。相場から離れてしまったら、絶対に大きな資産を築くことはできません。