「トランプが大統領であれば、そもそもロシアはウクライナに軍事侵攻していなかった」…そう考える専門家の勘違いとは…? 新刊『アメリカの罠』(文春新書、大野和基編著)より、国際政治学者であるイアン・ブレマー氏の論考を一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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トランプ再選でもウクライナ支援は続く
トランプは、自分が大統領になれば24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると豪語しています。さらに、戦争を止める方法を自分が知っており、バイデンが戦争を制御不能にさせたと主張しています。
戦争を止めるためには、アメリカの軍事支援と経済制裁をテコに、ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領に対して戦闘の一時停止を受け入れさせ、交渉のテーブルにつかせる必要があります。これはロシアにとっては、はるかに受け入れやすいことです。
一方のウクライナは、武器や資金援助をNATOやEU(欧州連合)諸国に大きく依存しており、こうした援助がすべてストップすれば、たちまち手に負えない状況に陥ると思われています。しかし、おそらく事態はその方向には向かわないでしょう。
NATO、EU、そしてG7は、11月のアメリカ大統領選でどちらが勝っても、ウクライナに資金が提供されるよう取り組んできました。これにはEUの金融・軍事支援資金や、凍結された(現在は事実上差し押さえられた)ロシア資産の利子を利用してウクライナに最大500億ドルを送るというG7の計画も含まれます。ウクライナが欧米から受ける援助が徐々に減っていくことは変わらないでしょうが、今年取られた措置が、突然トランプによって打ち切られることはあり得ません。
緊張関係が生じたのはトランプ政権下
トランプが大統領であれば、そもそもロシアはウクライナに軍事侵攻していなかったという専門家は多いです。
しかし、トランプが、ロシアとウクライナの間、あるいはウクライナ侵攻に向けたロシアとNATOの間で拡大する問題を封じ込めるために、アメリカの力を行使できただろうとは到底言えません。
このような緊張関係の多くは、すでにトランプが大統領であった間に生じていたからです。アメリカは、ウクライナや欧州におけるロシアの行動に対して幅広い制裁を加え、トランプは大統領在任中に対戦車兵器をウクライナに送っています。前任のバラク・オバマ大統領ならそういう兵器をウクライナには送らなかったでしょう。
確かにトランプの方がバイデンより予測不可能であり、それゆえにプーチンの突然の侵攻を抑制できたかもしれません。その一方で、トランプが大統領としてウクライナに対して否定的な態度をとっていたら、アメリカの軍事援助や資金が減り、ウクライナにとって戦争がより不利な結果となり、NATO加盟国などアメリカの同盟国との緊張が高まったことは確かでしょう。