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「プーチンの支持率の高さには『マフィア的側面』がある」プーチンが利用してきたロシア国民の“不信感”の正体

ヤマザキマリ×小泉悠対談

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 漫画『プリニウス』で、稀代の独裁者と伝えられる、紀元1世紀のローマ帝国の皇帝ネロの実像に迫ったヤマザキマリさん。多くの専門家が「プーチンはウクライナへの軍事侵攻を決断しない」と予測を誤る中、昨年時点から「軍事介入はあり得る」と警鐘を鳴らしていた小泉悠さん。

 独裁者プーチンがなぜこんなにもロシア国民の支持を得られるのか?  歴史上の独裁者たちの末路は? 博覧強記の2人が語り合った。

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ロシアでは「フェイクニュースとみなした報道を禁じる法律」が

小泉 ヤマザキさんの『テルマエ・ロマエ』と『プリニウス』の熱心な愛読者です。古代ローマ人のプリニウスはまず澁澤龍彦の作品を通じて博物学者として知りました。同時にローマ艦隊司令長官でもある人ですから、軍事オタクの私としては物語の展開から目が離せません。

ヤマザキ 軍事とロシアに関する小泉さんの豊富な知見には多くの人が注目していますから、メディアに引っ張りだこですね。

©文藝春秋

小泉 もともと私の専門はロシアの軍事力配備や軍事ドクトリンの動向といったマニアックな分野でした。2014年にロシアが軍事力を行使してウクライナのクリミア半島をあまりに容易く編入してしまったとき、仮想戦記のごとき出来事が現実に起きたことに衝撃を受けました。

 冷戦終結から四半世紀を経て、どうしてこのようなことが起こるのか、そもそもロシアは何がしたいのか。ロシアの地政学や秩序観を研究せずにはいられなくなり今日に至っています。

ヤマザキ ウクライナの現状をより詳しく知りたいと思っても、メディアは相反する情報で溢れています。私は日本とイタリアに拠点を置いていることから毎日イタリアのニュースもチェックするのが習慣になっているので、日本でもヨーロッパでも情報が錯綜していることがよく分かります。

全文は『週刊文春WOMAN vol.14(2022年 夏号)』に掲載中

小泉 フェイクニュースがかなり混在しているからですね。あえて実態が分からないようにするというロシアのオペレーションとして発信されているケースも少なくないと思われます。

ヤマザキ テクノロジーの進化によって私たちは多様な情報を得ることができるようになったと思いきや、何か重要な決定を下すときに判断の元となる情報がフェイクかもしれない。情報の扱いについては今後益々個々で鍛えた直観力と慎重さが求められていくことになるでしょう。

小泉 ロシアでは3月に、「当局がフェイクニュースとみなした報道を禁じる法律」が成立しました。ニュースの真偽に関係なく、当局は都合の悪いニュースはすべて「嘘」ということにできるようになったのです。