文春オンライン

「プーチンの支持率の高さには『マフィア的側面』がある」プーチンが利用してきたロシア国民の“不信感”の正体

ヤマザキマリ×小泉悠対談

note

ヤマザキ アメリカのトランプ前大統領が自分にとって不利なニュースをフェイクだと強く主張していた姿が記憶に新しいところですが、プーチンは法制化までしてしまいましたか。

ロシアの独立系世論調査機関「レバダ・センター」が4月下旬に実施した調査では、プーチンの支持率は実に82%でした。支持率が高いのは、国民の多くが政権に都合のいい報道にしか接することができないからだとも言われています。

 確かに情報に判断を操られることはある。しかしメディア統制だけで支持率をここまで上げられるものなのか疑問に思っていました。

ADVERTISEMENT

プーチンは「強いロシア」再建を目標に ©共同通信イメージズ/Sputnik

プーチンの支持率の高さに「マフィア的側面」

小泉 プーチンの支持率の高さにはマフィア的な側面があると思います。マフィアというのは、それが誕生したときは反社会勢力ではなく住民の互助システムでしたよね。

 日本語ではマフィア=ヤクザだけど、英語ではもう少し広い意味がある。アメリカ空軍では戦闘機乗り出身者を「ファイター・マフィア」と言ったりしますが、緩やかに価値観や利益を共有する団体というニュアンスだと思います。

ヤマザキ イタリアのマフィアは、他国からの支配や侵略に遭い続けた中世のシチリア島において、圧政に反抗するために生まれたという説があります。農地を守るための管理者たちが政治的支配者と繋がって今のように発展したともされています。

 組織はやがてボスの下に幹部や構成員が集まる「ファミリー」となり、その一部が移民先のアメリカで同様の結社を組織し、そこにアル・カポネのようなボスが現れるわけです。
    
 現代のイタリアでも利権と結びついたファミリーがある一方で、クリーンなまま継承された血族主体の組織が、ビジネスや地域の互助システムとして、現在も普通に散見されます。

イタリアの元首相にして汚職のデパート、ベルルスコーニ。©PA via ZUMA Press

小泉 ロシアの社会もこれによく似たところがあると思います。ロシアの場合は昔から公的なシステムに対する国民の不信感が根強く、公に頼らず身内で助け合ってきました。

 こういう非公式の助け合いは「法」ではなくローカルな「掟」に基づいているので近代的な秩序には馴染まない。この「掟」に基づく互助構造の総元締めがプーチンなのだと思います。イタリアの元首相ベルルスコーニもファミリーの親分ですよね。