ウクライナ侵攻が始まって間もない頃に、各メディアから流れてきたのがプーチン氏の「精神状態」をめぐる報道だ。「プーチンはパーキンソン病の可能性がある」「がんで闘病している」という情報も、まだ記憶に新しい人も多いだろう。
国家の要人の健康状態は最高機密情報にもかかわらず、なぜそれが流布したのか? 国際ジャーナリストの山田敏弘氏による新刊『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
イギリスのMI6のジョン・サワーズ元長官もオックスフォード大学関連の弁論団体の講演で、「ここ数年で別人になってしまい、今回はまともな判断ができていない」との分析を示した。
米共和党のマルコ・ルビオ議員は、開戦直後の2月25日に「プーチン氏に異変が起きていることは明らかだ」とツイッターに記している。ルビオは、上院の情報特別委員会のメンバーで、情報機関のレクチャーを受ける立場にある議員だ。
さらに3月8日には、米下院の公聴会でCIAのウィリアム・バーンズ長官が、「プーチンの側近らは異論を唱えられる状況にない」「独断的な傾向が強まっている」との見方を披露した。実際、2月20日に前述のナルィシュキン罵倒も起こっているので、信憑性は高い。また、開戦直後には、テーブルの端に座ったショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の2人が、遠くに座ったプーチン大統領の演説を聞かされるシーンが公開されていた。
かつて、プーチンは、多い時には1日30人以上の人と会議を行っていたと言われている。ところが、新型コロナの感染拡大以降は、ごく限られた側近たちのみと会うようになったとされる。その結果、判断力が鈍ったのかもしれないが、それを「病気」とまで言ってしまうのには躊躇を覚える。