しかし、欧米メディアからは、次々と「プーチンはパーキンソン病の可能性がある」「がんで闘病している」などといった真偽不明の記事が流された。国家の要人の健康状態は最高機密情報であり、真実はうかがい知るすべもないにもかかわらずだ。
筆者は、欧米が流す一連のプーチンの「精神分析」には、ある種のストーリーを作る意図があるように思える。それは、「プーチンとその側近が、この異常な戦争を起こしたのであって、ロシア国民は悪くない」というものだ。
なぜロシアはプロパガンダ戦で敗れたのか?
この戦争の特徴の一つは、プロパガンダの分野でもアメリカが中心となって「西側世界対ロシア一国」という構図を早くから作ろうとしていたことにある。その結果、チーム・アメリカのプロパガンダに対し、ロシア側は防戦一方になっているのだ。
ロシアのプロパガンダの敗北は、早い段階から決定的だった。「偽旗作戦」と同じくロシアは開戦後、プロパガンダを大量に流した。ゼレンスキー大統領に関するフェイクニュースだけでなく、「ウクライナの住民に物資を届けた」「軍事施設以外は攻撃していない」などの情報を広げようとした。しかし、実際には住宅や病院などが無差別に攻撃されていたし、多くの市民が亡くなっていた。世界中の多くのメディアはロシアの「嘘」をまともに取り上げなかった。
その理由は、すでにウクライナの人々が、いま目の前で起こっていることをSNSで公開していたからだ。政府関係者だけでなく、一般市民も、撃墜されたロシア軍機や大破した戦車、乗り捨てられた軍用車両などの画像や動画を次々とネットで公開していった。ロシア軍の爆撃で、負傷した女性や子供の映像が、世界中に拡散されていった。
ロシア国内では、ツイッターやフェイスブック、インスタグラムを遮断し、テレビでロシアに都合の良い話だけを流して情報を統制できたものの、西側諸国には関係ない。
世界に広く情報を拡散させるには、何十億人というユーザーがいるツイッターやフェイスブックなどのSNSプラットフォームを使う必要があるが、これらはいずれもアメリカの企業が運営している。
ロシアは2016年のアメリカ大統領選挙の際に、これらのSNSでフェイクニュースを拡散するためのアカウントを大量に運用した。その活動が発覚し、ロシアが関連するアカウントはかなりの制限をかけられている。ロシアは、プロパガンダ戦においても早々に敗北していたのである。