昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2022/05/30

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 政治, 国際

 開戦後、ロシア国防省は「作戦は成功している」と声明を出し続けていた。しかし、戦況全体を知るための情報は出されなかった。誰もが知りたいと思ったそのタイミングで、英米の軍による「ロシア軍が縦列になってキーウに向かっている」「ロシア軍には多くの死者が出ている」などの発表が行われたのである。それまでもウクライナ側がロシア軍に被害を与えたという情報はあったものの、信憑性が担保されていなかった。

 しかし欧米の公的機関が「信憑性のある情報」を出したのだ。各国のメディアが飛びついたのはいうまでもない。CNNやBBCのニュース番組では、軍の元高官が番組に出演し、戦局を解説するが、すべてこのような英米軍発の情報がベースになっている。映像自体はフェイクではないし、分析も的確ではあるが、ロシア軍の「苦戦」が強調されているように感じられた。

 それとあわせるかのように、ウクライナ側による情報が大量に流された。ウクライナの市民から「なぜここに来たんだ」とロシア兵捕虜が問い詰められる映像が、フェイスブック、TikTokなどを使って猛烈な勢いで世界中に広がっていった。現時点で真偽は定かではない動画もあるが、「ロシア軍は大したことがないのでは」という世論形成には寄与したと思われる。

「負けている姿を見せない」ウクライナ側の情報統制

 一方でウクライナ側の情報統制は徹底している。ネット上にあふれる戦争関連の動画や写真はロシア軍が攻撃されるものか、ウクライナの市民が被害を受けるものばかりで、ウクライナ軍が攻撃されるものは、ほとんど見つからないのだ。負けている姿を見せないこともプロパガンダの手法の一つである。

 また、ウクライナ政府は積極的にロシア軍の死者数や捕虜の個人情報について発信した。そのため、はじめはだんまりを決め込んでいたロシア政府も、2月28日を過ぎると犠牲者が出ていることを発表せざるをえなくなった。

 このようにロシア側が流した情報を次々と欧米が否定し、ウクライナの出す情報にはある程度お墨付きを与える。ウクライナ側を擁護する圧倒的な情報の中に、ロシア側の主張を埋もれさせるのが、この戦争の大きな特徴といえるだろう。

 その後、ウクライナ政府は、3月14日にロシア兵捕虜による記者会見を行った。「戦争をするとは聞いていなかった」「ウクライナにファシストはいなかった」などと語る姿は、典型的なプロパガンダ映像だったが、すでに「ロシア兵は無理やり戦争に連れてこられた」というイメージがついていたため、警戒されることなく受け入れられたようだ。

 世界は、既にロシアのプロパガンダの入る余地はなくなっていたのである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

この記事の写真(18枚)

+全表示

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春新書をフォロー