北海道を舞台に、ロシア軍と日本の自衛隊の地上戦を描いた『小隊』。一小隊長を主人公に、突然始まる戦闘と壊れる日常を描写した作者の砂川文次氏は、元自衛官の芥川賞作家として注目を集めている。砂川さんが元陸上自衛隊航空科という経歴からどのようにウクライナ侵攻を見ているのか、話を聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)
なぜ中国軍ではなくロシア軍との戦闘を描いたのか
――『小隊』はロシア軍が北海道の釧路に侵攻するという、とてもタイムリーなテーマです。
砂川 本作(『小隊』)に関してよく聞かれるのは、なぜ中国軍ではなくロシア軍との戦闘を描いたのか、という質問です。
まず大前提として、私は国際情勢や紛争の専門家ではありません。私がなぜ作中でロシアを敵として描いたかといえば、まさにそうしたシンクタンクや専門家のレポートに、「不確実な行動をとるのは中国よりロシアの方が多い」という報告が多くあり、そういうものを読んでいたので、私としてはロシアの方がそういう選択をするのかな、と考えたからです。ですので、このタイムリーさは私の先見の明なんかではなく、ひとえに国内外の研究の蓄積だと思います。
私の書いたものはしょせん小説ですが、今ウクライナで起きていることは現実です。小説に関連したお仕事を頂けるのはありがたいですが、実際の、しかもまだ続いている目の前の戦争について語ることは「ロシアの戦争」を商品のように扱ってしまっているんではないかという恐怖もあります。
――『小隊』では、「弾丸と一緒にやってくる音と風は、これほどまでに怖いものだとは思いもよらなかった」と、演習通りにいかない戦争の現実を描写しています。一方で、主人公の安達小隊長は、「おれたちはなんでこんなところで泥にまみれて臭くならなくちゃいけないんだ」と開戦に疑問も抱いていますが、何が「戦い」に踏み切る引き金となるのでしょうか。
砂川 国家に限らず他の社会集団でも、戦うか、戦わないかの選択をできるのは、結局ごく一部の人ですよね。大多数の人は戦うかどうかなんて選べなくて、だからこそ色々な立場に思いを馳せなきゃいけないんだろうなと思います。