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「ロシアの目的が首都占領ならキーウ戦は“敗北”だが…」元対戦車ヘリパイロットの作家・砂川文次が考える“ウクライナ侵攻の終わり”

砂川文次さんインタビュー#1

2022/05/10

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 国際, 読書

note

ウクライナ侵攻の目的を何度も変える理由

――ロシア軍は、当初2、3日でキーウを制するつもりで、祝賀軍事パレードや花火まで準備していました。しかし、「キーウ陥落」に失敗すると、ノヴォロシア連邦(ウクライナの南から東)が目的だったと立場を翻し、さらにその後はドンバスが「当初からの目的」だったと主張しました。現在は、トランスニストリア(モルドバ)を含む領土が目的だとして、ウクライナ侵攻の目的を何度も変えています。

砂川 そもそも、ロシアの目的が全然わからない。ウクライナの目的は「ロシアを追い出すこと、自国を守ること、相手を殲滅させること」と、非常にはっきりしています。しかし、ロシアの目的が例えば首都の占領だとしたら、確かにキーウに関しては「敗北」なのだけれど、目的がわからない以上、どれだけ続くのかはわかりません。

「おれたちはなんでこんなところで泥にまみれて臭くならなくちゃいけないんだ」(『小隊』より)

 ロシアで戦闘・戦略がころころ変わっている理由は、プロイセン王国の軍人で軍事学者だったクラウゼヴィッツが『戦争論』(1832)で表現したところの「摩擦」が理由だと思います。摩擦とは、作戦を行う上での困難や障害のことです。

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 たとえば雨が降って歩くのが遅くなるのも摩擦になるし、怖い上司や、同期で仲が悪い上司なんていうのも摩擦です。そして、『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫、1984年)にもある日本軍の有名な話ですが、机上演習で負けそうになると、上級参謀から「敵戦力の設定を弱めて日本軍の勝てる条件にしろ」と言われて、机上では「成功」させる。これも捉えようによってはある種の摩擦といえるかもしれません。

 戦闘というのは基本的には相互作用なので、今回は、ロシアが想定していなかったウクライナ側の行動・抵抗によって方針を変えざるを得なくなったのかなと思います。

「ロシアが想定していなかったウクライナ側の行動・抵抗によって方針を変えざるを得なくなったのでは」

――ロシアの想定以上に、ウクライナの抵抗が強かったと。

 ウクライナ側の抵抗もさることながら、想定以上の抵抗を受けた場合、本来敵対者は別の方法を考えなければならないわけですが、組織が大きい分もともとの計画修正が難しく、「硬直化」してしまっている部分もあるのではないでしょうか。最初の「計画」は変わっているけれども、巨大な組織だからこそ当初の計画を進めようとする部分と、新しい計画に従事しようとする部分とが出てきて、結果的にちぐはぐになってしまうという具合に。

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