ちなみに、この「硬直化」というのもクラウセヴィッツが『戦争論』で用いていた概念の一つです。
損害が大きいから終戦が近い、というものではない
――ロシア軍は傭兵を召集するのにも苦戦し、士気は低く、かつNATOの統計によれば7000人から1万5000人(ウクライナの発表では1万8600人)ものロシア兵が犠牲となっているという状態です。これは、アフガンとの10年間の戦争でロシアが失った兵士数1万4400人、またチェチェンの二度の戦いでの1万1000人と比較しても大きな数字です。侵攻から70日間経ちましたが、露兵の犠牲者数について、どうお考えですか。
砂川 損害が少ないから順調、損害が大きいから終戦が近い、というものではないと思います。結局、その損害と戦いの目的のつり合いがとれているかどうかなのかな、と。
今回の例として適当ではありませんが、例えば「殉教」それ自体が目的であった場合、どれだけ損害を受けているかは戦闘をやめる基準にはなりませんよね。
――侵攻が始まる前の時点で、ロシア軍が待機させている主力戦闘部隊の大隊戦術群(BTG)は約120とCNNは報道しました。欧州の政府当局者によると、侵攻が6週目に入り、このうちの約30が任務から外れています。大隊戦術群のうちの約4分の1が作戦に投入できないという点は、ロシア軍にとって打撃で、たとえば数週間内にドンバスを「落とす」ことも難しいだろうという観測が出ています。25%の大隊戦術群を失うことはやはり軍事的には戦術に影響を及ぼす大きな損失と捉えられるのでしょうか。
砂川 純軍事的に言うと、撃破や大破は損耗率で決まります。おおよそ50%損耗すると、まとまった部隊行動はできない「壊滅」です。だから、25%の部隊を失うことは、確かに苦しいかもしれないですね。
ただそれは自己完結能力を持つ1つの部隊の話で、私は先のとおりその道の専門家ではありませんので詳しい事情は分かりませんが、120個の部隊が1つになって初めて能力を発揮できるものなのか、はたまた独立的に動ける部隊のうち30個が損耗しているかで意味は変わってくるのではないでしょうか。
(撮影:深野未季/文藝春秋)
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