これまでのところ、レイテ作戦は各タフィー隊にとってはきわめて平穏無事だった。各艦は1週間近くサマール島とレイテ島の沖で持ち場についていた。航空群は、輸送艦隊上空の戦闘空中哨戒や、フィリピン中部上空の偵察飛行、海岸の地上目標の攻撃でいそがしく飛んでいた。しかし、艦の乗組員はめったに敵機を目にしていなかった。何度か潜水艦の恐怖はあったが、日本の軍艦の影はなかった。
駆逐艦は忠実に直衛任務にあたり、外周部で侵入する潜水艦を探したり、海に落ちた飛行士を救助したりしていた。タフィー隊は南方と東方と、そして(将来)北方で戦われる海戦に参加することは期待されていなかった。したがって、その朝、7時少し前、栗田艦隊の巨大な戦艦と巡洋艦の前檣楼が北西の水平線にはじめて顔をのぞかせたときには、これは激しい驚きだった。
驚愕する防御艦隊
侵入者がいる痕跡がはじめてもたらされたのは、30分前、〈タフィー3〉の対潜哨戒機が飛行甲板からカタパルトで射出されたときだった。短距離の低出力無線系で日本語の声が耳に入ってきた。いちばん近い敵艦は150海里以上離れていると考えられていたが、送信は近くのフィリピンの島から出ている可能性もあった。未確認のSGレーダーの探知は、なにかが北から近づいてくることをしめしているようだったが、輝点は艦隊らしきものには変化しなかった。これはハルゼー部隊の一部、あるいはただの気象前線の可能性があった。
午前6時46分、〈タフィー3〉の見張り員が北西の水平線上に遠くの対空砲火の炸裂を認めた。これはまちがいなく奇妙であり、ジギー・スプレイグが上空を周回する飛行機に調査を命じようとしたそのとき、パイロットが無線で報告した。
「敵水上部隊……そちらの機動群の北西20海里を20ノットで接近中」
「どこかの頭のイカれた若い飛行機乗り」が第三艦隊の隷下部隊をおろかにも誤認したのだと思ったスプレイグ提督は、かっとなった。彼はスピーカーにどなった。
「航空作戦室、やつに識別を確認しろといえ」
答えが1分後に返ってきた。「敵部隊の識別を確認」とパイロットはいった。
「艦には前檣楼(パゴダ・マスト)があります」
スプレイグと部下の士官たちは、信じられないという目で北西の水平線を見まわした。対空砲火の炸裂がさらに空に染みをつけた。日本軍のトップマストの黒い形が水平線上に姿を現わした。いちばん近い追撃艦は17海里先で、急速に接近していた。