大和、砲撃開始
この大射程では、大和の巨大な主砲は前方に向けられ、23度の仰角をかけられた。噴きだす6本の巨大な炎と煙に押しだされ、徹甲弾6発は旋回しながら砲口から飛びだし、遠くの目標に向かって上昇をはじめた。砲弾はそれぞれ約1.5トンの重量があった。25秒の飛翔のあと、砲弾は、着弾までの中間地点で、その弾道の頂点である海抜約6000メートルに達した。それから秒速約460メートルの終末速度で落下しはじめた――砲口初速よりかなり遅いが、それでも音速よりずっと速い。したがって、アメリカ側の視点では、すすり泣くような音も、風を切る音も、飛来する斉射を予告しなかった。
彼らは、空母ホワイト・プレインズの右舷正横に6本の水柱が突然、上がるまで、砲撃を受けていることを知らなかった。その1本1本が20階建てのビルの高さに匹敵した。水柱はゆっくりとしか消えず、水しぶきの瀑布が風下に降りそそいだ。着弾から30秒たってもまだ、幽霊のような水滴の柱6本は、巨大な砲弾が落下した地点にただよっていた。
〈タフィー3〉所属の艦は1隻も、5インチ以上の口径の火器を装備していなかった。したがって、アメリカ側はこの距離では応射できなかった。できたのは命からがら逃げることだけだ。しかし、とくに速く逃げられたわけでもなかった。群の護衛空母の一部は、すべての缶の圧力を最大限にしても、17ノット出すのがやっとだった。スプレイグはのちに、「こっちは15分ももたないと思った」と認めている。
〈全3回の1回目/2回目につづく〉