「会談を見て無性に冷麺が食べたくなった」
また、晩餐会には平壌の名店「玉流館」の平壌冷麺が供された。その席で金委員長が「文大統領は遠くから運んできた冷麺をゆっくりと……、あっ、遠くからと言ってはいけなかったか(苦笑)」と話した言葉も韓国の人々の心に響いたようで、ソウル市内の冷麺店は「会談を見て無性に冷麺が食べたくなった」(40代夫婦)という客で長蛇の列ができた。普段は訪れない20代の客足が多かったという。
平壌冷麺は平壌の郷土料理で、牛肉などでとったあっさりした冷たいスープに主にそば粉から作られた黒っぽい麺が特徴だ。晩餐会の冷麺は、連れてきた「玉流館」の料理士と持ってきた製麺機で作られたものだった。
街で声を拾ってみると、それまで持っていた金委員長のイメージが会談から変わったという声が多く聞かれたが、一方で非核化や今後の南北交流については半信半疑の人も多かった。
30代の会社員は、「金正恩委員長には叔父も含めて何百人も粛清した残虐で、好戦的なイメージがあったのですが、会談での会話を聞いてみて、『ああ、きちんと建設的な考え方ができるリーダーなのだなあ』という印象を受けました。ただ、非核化については楽観していません。これから米朝会談が実際に行われて、どういう結果がでるのか、判断はその後でしょう。南北交流についても夏に予定されている離散家族の交流がまず実現するのか、約束したことをひとつひとつ実現して積み重ねていかないとまだ信用できない」と話していた。また、10代の高校生は「もし、終戦宣言が行われたら、徴兵制はなくなりますかね? 軍隊には行きたくないから、そうなるといいなあなんて思うんですけど」とおどけたように言っていた。
「今まで北朝鮮が約束を守ったことがありますか」
韓国に来て15年近くになる50代の脱北者(韓国の国策研究院所属)は、「最初は緊張している様子もみられましたが、(金正恩委員長の妹)金与正も同行したのを見て、『韓国を信頼している、暗殺されることを念頭にはおいていないのだなあ』と感じました。核を完成させた今、金正恩の頭の中にあるのは北朝鮮の経済発展だけ。ただ、検証可能な非核化はあり得ないと思います。巧妙に隠すでしょう。それでも南北交流は大歓迎です。北朝鮮に呑み込まれる形での交流や統一でなければ、私たちも故郷と普通に往来できる日がくるかもしれませんから」と言っていた。この時、今まで感じたことがなかった、どこか北朝鮮を誇らしげに思っているようなそんなニュアンスも伝わってきた。
南北首脳会談に反対だった60代の保守系の知り合いは、「今まで北朝鮮が約束を守ったことがありますか。韓国はだまされている。北朝鮮が核を放棄するはずがない。また過去のようなことが繰り返されたら、韓国は共犯者ですよ。金正恩への判断も早すぎる」と痛烈に批判していた。