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水谷 興奮している女性を見ることで、自分までムラムラしてしまわないよう、理性を保つのが大変だと思います。

 以前、女性用風俗で働いている女性のセラピストに話を聞いたことがあるのですが、「自分に男性器がなくてよかった、あったら大変なことになっていたかも」と言っていました。女性同士でも、相手の性的な昂りのエネルギーに影響されるそうなので、男性にはさらに強い自制心が求められるのだと思います。

客が突然セラピストの「名前のタトゥー」を彫ってきた

――女性を感じさせるために、セラピストはどんなことに気をつけているのでしょうか?

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「セラピストと看護師さんの悩みは実はすごく似ているんです」 ©平松市聖/文藝春秋

水谷 最初は、女性をいかに安心させられるか苦心するそうです。その点では、私が別作品で描いていた精神科の看護師さんと同じだなと感じました。心を開いてもらおうと悩みを聞いたり、一緒に落ち込んでしまったりと、セラピストと看護師さんの悩みは実はすごく似ているんです。

 緊張を解くためには笑いを取ることが大切なので、小道具を仕込んでいるセラピストが多いです。面白い形の文房具や、セラピストの写真入りのクリアファイル、人気キャラクターの絵柄のコンドームなどを用意しておいたりして、クスッと笑ってもらえたら一気に気持ちがほぐれます。

――身体に触れる前から工夫しているんですね。

水谷 ただ、セラピストがあの手この手で気分をほぐそうとしても、女性側が行為中に気を遣ったり、「自分が変じゃないか」とずっと気にしていることが多いのだそうです。「いってみたい」と言って女風を利用するものの、いざとなると「いくのが怖い」と言う人が多いんです。「いけない人は勇気がない」と言うセラピストもいました。

 セラピストは快感を得るための手伝いはできますが、女性が気持ちよくなるためには自分で自分を解放することがとても大切だといいます。最後は「もういいや!」と思い切って自分を解き放つと、いけるようになるそうです。

――自分を解放するには、信頼できる相手でないと難しそうです。セラピストと客が、親密になり過ぎることは多いのでしょうか。

(画像:『僕は春をひさぐ』より)

水谷 癒しを求めて女風を利用している女性が多いので、ぎゅっと抱きしめてもらうだけで好きになってしまうことはあると思います。中には、セラピストに依存してしまう客もいますね。私の知る範囲でも、客が突然セラピストの「名前のタトゥー」を彫ってきた話など、ゾッとするようなエピソードが沢山ありました。