首都圏では、およそ5人に1人もの小学生が受験に挑戦する現代。熾烈な競争の中で心身ともに疲弊していく少年少女がいる。
子供本人の限界を超えた努力を保護者から強制され、場合によっては、暴力や暴言が伴うこともあるという。
そうした「教育虐待」の実情に迫った漫画が、『教育虐待 子供を壊す「教育熱心」な親たち』(原作:石井光太、構成:鈴木マサカズ、作画:ワダユウキ/発行:新潮社)だ。Xで漫画の一部が投稿されると、当該ポストは3045万インプレッション、6.9万いいねを記録するなど、大きな反響を呼んだ。社会問題としての注目度が高まっている様子がうかがえる。
「SNS上での反響は想像以上に大きく、引用ポストで本当に様々なコメントをいただきました。
なかでも印象的だったのは、『ここまでではないかもしれないが……』という前置きをしながらも、『自分の受験生時代にも“教育虐待”にあたる部分があったかもしれない』と、この漫画を通して、過去に傷ついた経験を自分なりに言語化されている方がいたことでした。
原作の石井光太さんから『親から受けた心身への暴力に自覚のない人もたくさんいる』とお話は伺っていましたが、その現実に直面した瞬間でした」(担当編集者の松村朋香さん)
自身が受験生だったときの経験を振り返った反応が寄せられた同作。当初からそうした読者からのリアクションを想定し、漫画制作に取り掛かっていたのだろうか。
「自分ももしかしたら教育虐待をされていた(もしくは現在もされている)世代のことは意識していました。そのため、若い読者に刺さるよう、作画のワダユウキさんには『より直接的でインパクトのある画を描いてほしい』と、何度かリテイクのお願いをしていたほどです」(担当編集者の岩坂朋昭さん)
教育虐待というセンシティブな社会問題をテーマにするうえで、“漫画”を選んだ理由は何だったのか。
「手掛けた作品で、なんらかのイデオロギーをもった強いメッセージを伝えることは目指していません。それより、いまそこにあって、人々が目を背けたり、見て見ぬふりをしている事象について、間口が広く、読んでいてもわかりやすい特性のある“漫画”という媒体で明らかにしたいというのが正直な思いです。
それによって、世の中の方々に、教育虐待という問題があることを知っていただき、ゆるやかにでも社会が良き方向へ変化していく小さな助けになればと願っています」(同前)