「ひどい! ひどい!」と小学生が逆上して、先生の眼鏡を破壊する事件も…。少子化なのに、なぜ小学生の校内暴力は増加傾向にあるのか? ジャーナリストの石井光太氏の新刊『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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先生に暴力を振るう低学年
巷では、今時の子どもは昔に比べるとおとなしくなったといわれている。だがその一方で、これまでにないほど校内暴力が増加しているのを知っているだろうか。
校内暴力といえば、中高生の不良が先生に歯向かったり、学校の窓ガラスやドアを壊したりといったイメージがある。
文科省が実施した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、2022年度に小中高校で起きた暴力行為は、9万5426件。20年前と比べると2.8倍であり、子どもの数が減少していることを踏まえれば、現場感覚では相当増えている実感があるはずだ。
一体、どういう子どもが暴力行為を起こしているのか。図2を見てみると、中高生に比べて小学生の暴力行為発生件数が右肩上がりになっていることがわかるだろう。
校長(東北、50代男性)は言う。
「昔はガキ大将同士が校庭でケンカするとか、教室で暴れて物を壊すといったことがありました。いじめでも身体的な暴力がメインだった。でも、今はそういうことがなくなっています。代わりに起きているのは、クラスにあまりなじめない未熟な子がパニックになって他人に危害を加えることです。意にそわないことを言われて頭に血が上り、とっさに他の子どもを叩くとか、先生を突き飛ばすといったことです」
校長の学校でもつい先日、子どもによる先生に対する暴力があったそうだ。
小学3年のクラスみんなで大掃除をしている時、ある男の子がふざけて男性の先生に“カンチョー”を何度もしてきた。あまりにしつこいので、先生が振り払おうとしたところ、たまたま手が目にぶつかった。すると、その子はパニックになり、「ひどい! ひどい!」と言って持っていたモップで先生に殴りかかり、眼鏡を壊して顔に怪我を負わせたという。
校内暴力とは、学校生活に起因して起きた暴力行為(対教師暴力、生徒間暴力、器物損壊)と定義されている。この男の子の暴力は未熟さからくる癇癪に過ぎないように思えるが、定義からすれば立派な校内暴力となる。
先生たちの意見で共通するのが、小学校での校内暴力は学年が低ければ低いほど起きやすいということだ。それを裏付ける統計がある。
図3は、小学校で暴力行為をした加害児童数を学年別に2014年、2018年、2022年で比較したものだ。すべての学年で増加しているが、高学年より低学年で、暴力件数が有意に増えているのがわかるだろう。
先の校長が指摘するように、未熟な子がパニックになってする暴力なのであれば、たしかに低学年の子の方が起こりやすいのかもしれない。
どうして、こんな事態が起きているのか。