「全体の中のどこにピアノの音を入れるか、彼は本能的にわかっていた。ニッキーは自分のすごさを自覚してなかったと思う。ちょうどいいタイミングの勘は完璧だった」

 ストーンズのピアノと言えば「6人目のストーンズ」と呼ばれたイアン“ステュ”スチュアートがいる。デビュー時に主に外見上の理由からプロデューサーの判断でメンバーから外れたが、その後もセッション・ピアニストとしてバンドを支えた。「ブルーズを弾かせれば右に出るものはいない」と評されたが、それ以外には興味を示さなかったという。そのステュとニッキーについてキースが語るシーンはストーンズファンには聴きどころだ。

キース・リチャーズ ©THE SESSION MAN LIMITED 2024

「(ニッキーは)ステュの腕前どころか彼の夢すら超えるようになった。ステュは関心もないような曲だから『できるのはニッキー・ホプキンズだけ』と言ったんだろう」

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ビートルズ4人全員のソロアルバムに参加

 映画にはニッキーの貴重な演奏シーンが散りばめられている。ジョン・レノンのアルバム『イマジン』の収録場面では、ジョンとニッキーが1台のピアノで連弾するお宝映像がちらりと映るので見逃せない。ニッキーは解散後のビートルズ4人全員のソロアルバムに招かれ、2度目のグランド・スラムと称された。セッション中心だから表舞台での演奏場面は限られるが、数少ない映像を補うのが彼をリスペクトするピアニストたちによる再現プレイだ。

ニッキー・ホプキンズとジョン・レノン ©THE SESSION MAN LIMITED 2024

 その代表がストーンズの『シーズ・ア・レインボー』。5色のiMacが踊るように動く1999年のテレビCMで使われた名曲だ。全編をニッキーのピアノが彩るが、中でもイントロが曲を引き立てる。セッション・ピアニストのパディ・ミルナーが「とてもエレガントで美しいピアノだ」と語りながらメロディを奏でる。瞬時にCMの映像と音楽が蘇る。ニッキーのプレイのどこが素晴らしいのか、随所でプロが実演を交えて解説してくれる。ビートルズの『レボリューション』でも、間奏でニッキーが聴かせるソロを再現。見事にキマっている。

 他にも思わぬところで懐かしのミュージシャンに出会える。ジョー・コッカー『ユー・アー・ソー・ビューティフル』でのニッキーについて「メロディのセンスが天才的なんだ」と語っているのはピーター・フランプトンではないか! 70年代に『ショー・ミー・ザ・ウェイ』が大ヒット。僕ら世代のロックファンにはおなじみだ。それにしてもずいぶん姿が変わったなあ。