ポール、ジョン、ジョージ、リンゴ。ザ・ビートルズがこの4人になる前、ドラマーは別の男だった。ピート・ベスト。メジャーデビュー直前に突然解雇された彼が、ビートルズを追い出された日やその過程などについて自ら詳細に語ったドキュメンタリーを、洋楽ファンのジャーナリスト・相澤冬樹が大推薦!
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「ドラムセットを持っていたから」選ばれた男
パッとしないバンドで2年半も苦楽を共にしたじゃないか。場末のクラブで演奏を繰り返し、ドイツへの遠征で場数を踏んで腕を磨き、さあこれからって時に「お前はクビだ」って、そりゃないだろ?
誰もが知ってるビートルズ。そのメジャーデビュー直前にバンドを解雇されたドラマー、ピート・ベストの心中は察するに余りある。映画は彼らが世界に羽ばたく寸前の“知られざる”エピソードを描く。中でもピートが率直に当時の出来事を回想するシーンがかなりの部分を占め、文句なしに面白い。例えば彼が他のメンバーに抱いていた印象。
ポール・マッカートニー……「広報マンみたい。『調子はどう?』みたいな」
ジョージ・ハリスン……「一番若くておとなしい。誰よりも子供で幼かった」
それがジョン・レノンになると……「初対面で圧倒されたよ。ルックスもそうだけど、ちょっとした冗談、一風変わったユーモアにね」
何となくわかる気がする。
ビートルズ、デビュー前のエピソードとしてよく知られるドイツ・ハンブルクへの遠征についても詳細に語っている。演奏するクラブは、世界的に有名な“飾り窓”の歓楽街レーパーバーンにある。その巨大なネオン街に圧倒される若き“ビートル”たち。革ジャンを着て粋がっていても、まだ17~18歳の少年だった。ベルリンの壁が構築される直前だと思うと歴史を感じる。
最初は街一番のクラブで演奏するつもりだったけど、実際には「薄汚く古い」店に回された。そこを街一番にしてやろうと張り切ってライヴを。毎晩7時間もの長時間演奏を要求されたが、客の反応、客足の動きを見極め、緩急つけたパフォーマンスで乗り切った。
「プロになったよ。あそこで成長したんだ」
ハンブルクでのビートルズを当事者が誇らしげに語る貴重な映像だ。実は彼の加入は、このハンブルクでのクラブ出演にあたり「ドラマーを見つける」という条件を満たすためだったと音楽評論家が明かしている。ピートが選ばれた理由は「ドラムセットを所有していた」。
そう言えば何かとビートルズと比較されるローリング・ストーンズも、ビル・ワイマンをベーシストに選んだのは「大きなアンプを持っていた」のが理由だったとか。ピートもビルも腕は確かだが、それ以上に楽器の所持が大事だったというわけだ。高価だったからなあ。