ソフィア・コッポラ監督の最新作『プリシラ』はエルヴィス・プレスリーの妻となったプリシラが主人公だが、衣装の再現でも話題を集めている。
この作品に限らず、1960年代の製作、または同時代を舞台にした映画の衣装は、記憶に残るものが多い。
『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーンの黒ドレスや『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のマーゴット・ロビーのミニスカートはなぜ生まれたのか? 1960年代を映画ファッションから振り返る。
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実際のプリシラのウエディングドレスは既製品だった
ファッションは時代を映す鏡。映画はファッションを介して時代を表現するツール。劇中で俳優が纏う服から、その時代の流行と時代背景、空気感が透けて見える。
公開中の映画『プリシラ』(2023年)はその好例だ。
アメリカ陸軍から徴兵されて旧・西ドイツにある陸軍基地に勤務していたエルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)が、当時まだ14歳の少女だったプリシラ(ケイリー・スピーニー)と出会ったのは1959年。
2人は即行で恋に落ち、8年後の1967年5月1日、ラスベガスで結婚式を挙げる。
その時、プリシラが着た半透明の袖にクリスタルが散りばめられたベビードール風のウエディングドレスは、ウエディングドレスといえば長袖の身頃と幅広のフルスカートが当たり前だった1960年代以前のタブーを打ち破った逸品。
2人のウエディングフォトは革命的なウエディングドレスと共に世界中に拡散される。
プリシラはそのウエディングドレスをアメリカ国内でチェーン展開していた高級百貨店、ニーマン・マーカス(2020年に経営破綻)で購入したとコメントしている。
つまり、世紀のロックンローラーの妻が、基本、一生に一回しか着ないウエディングドレスをプレタポルテ(高級既製服)からチョイスしたわけだ。
1960年代はファッションの主流がオートクチュール(高級仕立服)から大量生産が可能なプレタポルテへとシフトし始めた時代。