9月5日におこなわれたサッカーW杯予選、日本vs中国。サッカーはさっぱりわからないが中国には詳しいルポライターの安田峰俊氏が、中国代表を応援するためにあえて埼玉スタジアム2002のアウェイ席で観戦した結末とは――。(前編はこちら

最序盤は頑張っていた

 さて、日本vs中国。サムライブルーと人民レッドの宿命の対決がいよいよ待望のキックオフだ。序盤は格上らしき日本が攻めの姿勢を見せたが、中国は必死の防戦で、果敢なクリアを連発して幾度もの危機を乗り越える。すごいぞ中国代表、善戦している。

 中国サポーターたちはピンチになるとスタジアムの最奥席まで総立ちになり、クリアに成功するたび歓声を上げた。前半6分には中国代表がちょっと攻勢にも出た。勝てる──、人民の反撃はこれからだ!

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最前線エリア以外でも、熱意にあふれた中国人多数。勝て、勝つんだ中国 ©︎安田峰俊

 

 だが、そう思っていたら前半12分に日本の遠藤とかいう選手がヘディングでゴールを決めた。聞いてないぞ。サッカー好きの王さん(前編参照)が「やばい」と恐れていた三笘と、久保の他にも上手な人がいるのか。でも、ここは気持ちを切り替えよう。中国側もたまに攻勢に出るときがないこともない。そんなときは中国サポーターも総立ちだ。まだいける。

 とはいえ、前半20分前後から中国側がかすかな攻勢すら見せなくなり、かわりにイエローカードばかりもらいはじめた。中国サポーターが立ち上がる頻度も減った気がする。

 いや、これも韜光養晦(能ある鷹は爪を隠す)である。一発逆転のカウンターで、中国5000年の底力を見せるのだ。起来、立ち上がれ人民――。あ、三笘がシュート決めて2-0になった。まあ三笘はやばいらしいからしょうがない。見なかったことにしよう。

 やがて前半が終了した。なんとハーフタイムの間に、わずか2点差にもかかわらず後ろの方の座席に座る10人ぐらいの中国サポたちがごそっと帰ったので、われわれは席を得た。根性無しの敗北主義者どもめ、もっと自国代表チームの勝利を信じろ。でも、私たちが座れるのでよしとしよう。

「中国代表は崩壊だあ!」

 さあ後半だ! せっかく座れたので持参の中国国旗を取り出すべしと、友人に頼むために横を向いたら、後半7分に南野とかいう人が決めて3-0になった。

 さらに多くの中国サポーターが静かに帰りはじめる。おいおい3点ビハインドごときでうろたえるなよ。中国人民14億人と比べたら3とか超小さい数じゃん──。あああっ、さらに後半12分にまた南野が4点目を叩き出した。誰か知らんけど南野やばい。三笘がどうこう以前に、日本代表ってメンバー全員やばいんじゃないのか。

©︎安田峰俊

 ふと前を見ると、いっそう大勢の中国サポーターが蜘蛛の子を散らすように撤退していた。守り続ける選手のみならずサポーターの集中力も限界らしい。私たちの前の席にいた、子どもがなぜか日本代表の久保のユニフォーム姿(父親に無理矢理連れてこられたらしい)の在日中国人の親子も、父が無言で子の手を引いて去っていく。待て親父、息子は日本代表を見たそうだから残ってやれよ。