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 そして後半32分、日本代表の誰かが5点目のゴールを決めると、私たちの前にはもはや縦6列にわたって空席が広がっていた。士気の低下を憂えた龍之隊のコアメンバーが上段までやってきて、試合展開とは無関係に巨大な中国国旗を振りはじめたときは周囲がちょっと盛り上がったが、旗を見ているうちにまた失点した。6-0。もはやサッカーのスコアじゃない。

五星紅旗が風を受けてはためく。フレー、フレー、北京晴れ……! ©︎安田峰俊

 ついに試合も大詰め、後半アディショナルタイム突入である。ちなみに昨年のWBCの中国代表は、侍ジャパンに1-8で負けた試合でもホームランを1本打って一矢を報いている。この日のサッカー中日戦、見ていると中国側のボール支配率が10%くらいに思えるが(注.実際は23%。発表元により差異あり)、最後に1ゴールくらいは……。ああああああああっ、久保が決めて7点目だ。そのまま試合が終わってしまった! 野球よりも弱いんじゃないのかサッカーの中国代表!

 高口さんが受け取ったWeChatの連絡によると、サッカーを愛する王さんも6失点目の時点で「中国代表は崩壊だあ!」と絶望の叫びを上げて撤収を決めたらしい。帰路、最寄りの駅まで徒歩17分もかかるのだが、漢服姿で歩きにくそうな奥さんとケンカにならないか心配である。

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行儀がよかった2024年中国サポーター

 後の報道によると、7-0は中国代表の日本戦における過去最悪のスコアだったそうだ。中国のネット上では諦観の声とともにチームへの罵声が満ち、大変なことになっていたようである。中国は国策としてもサッカー代表のテコ入れに熱心だったはずなので、党と国家のメンツも丸潰れだ。

 もっともネットの騒ぎとは裏腹に、会場に試合終了まで残っていた中国サポーターたちは行儀がよかった。悲惨な結果にもかかわらず、物を投げる人も耳につくほどの罵声を浴びせる人もいない。さすがに終了後のゴミ拾いまではしないものの、座席や床も目視で確認する限りでは割ときれいだ。

 惨敗後にサポーターの前に整列した中国代表選手たちに、暖かく拍手を送っている。その後、日本代表チームが能登半島地震復興メッセージの「がんばろう能登」の横断幕を手に場内を歩いていた際も、拍手を送って祝福する中国人たちがすくなからずいた。

©︎安田峰俊

 チームがあそこまで弱いと、もはや一切衆生に慈悲を覚える菩薩の心境にならないと耐え抜けないのかもしれないが、さておきWBCのときに見たのと同じく優しい世界である。日本で観戦しているサポーターの「民度」だけなら、いまの中国のFIFA世界ランキングはチームの順位よりもずっと高いのではないか。