中国共産党中央宣伝部のセリフが……
よくよく考えてみれば、中国人も気の毒な人たちである。習近平政権の下品で攻撃的な対外政策と、それを真に受けて海外派出所を作ったり靖国神社で放尿したりする一部のアホたちのせいで、いまや日本のみならず西側諸国の対中感情は最悪だ。もはや私ですら、中国を「アブない国」として認識しているくらいであり、一般の中国人が西側(先進国)相手のビジネスや旅行で気まずい思いをする場面は増えているはずだろう。
社会が豊かになったことで、一昔前と比べれば極めて多くの人が行儀よく振る舞えるようになり、世界のどこでも違和感なく受け入れられる常識的な人も増えた。そのはずなのに、国家が「アブない国」であるせいで個々の中国人は以前よりずっと白眼視されているのだ。試合後の優しい雰囲気もあって、私は思わず同情的になってしまった――。
ところが、帰宅後にSNSを見て苦笑した。
「中国共産党中央宣伝部は3つの言葉を残している! 完遂できない任務があると思うな、克服できない困難があるとは思うな、消し去れない敵がいるとは思うな、だ!」
試合後、わざわざ抗日戦争当時の八路軍(人民解放軍の前身)の軍服姿で、拡声器を片手にそう演説していた人物がいたのだ(ちなみにこの演説は私も現場で耳にしたが、距離が遠くて内容や話者をしっかり観察していなかった)。
立ち位置や拡声器の装備、周囲のすくなからぬサポーターが演説を聞いて支持を示していた様子、本人が「杭州から来た」と語っていることなどから考えて、おそらく中国大陸から直行してきた公式応援団、龍之隊のコアメンバーだろう。仮に彼が一般人だったとしても、この格好とこの演説の内容を静止せず、むしろ大喜びしていた人たちが龍之隊にはかなり多くいる。
中国サポーター評価、大暴落
いまから20年前の2004年、中国サポーターは中国国内でおこなわれたアジア杯の際、抗日戦争のスローガンが書かれたグッズをスタジアムに持ち込み、日本に負けた後で暴動を起こしたことがある。
現在の彼らの振る舞いは、当時と比べれば非常にマシになった。だが、マインドとしては大して変わらないものを持つ人たちが現在もなお応援団の中心に居座り、けっこうな数の人たちが賛同してもいるのである。
――おまえら、そういうとこやぞ。
中国代表チームのみならず中国サポーターの評価もまた、やはり一部のアホのせいで、目下の北京や上海の不動産価格と同じく一気にダダ下がりなのであった。
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本記事の著者の安田峰俊氏が「三国志やキングダムは好きなのに現代中国はイヤになった人に勧める」と語る新著、『中国ぎらいのための中国史』(PHP新書)は9月18日刊行です。