9月5日17時20分、私は東京メトロ南北線の車内で凄まじい帰宅ラッシュに耐えていた。退勤時のサラリーマン特有の、胃の悪そうな臭いと疲れたオーラが車内に充満していてしんどい。だが、この日の車内には普段とやや異なる光景があった。期待にあふれた明るい表情を浮かべる青い服装の人たちが、さながら地獄に咲く花のように混じっていたからだ――。
彼らはみんな“私と同じく”、この日の夜に開催されるサッカーW杯予選の日本代表戦を見に行く人たちであった。
なお、私は2018年のW杯の際にこんな記事(『私がW杯日本代表を応援しない超個人的でチンケな理由について』)を書いたくらい、サッカーに興味がない。当時と比べると、体調維持のために運動習慣を持ったのでスポーツ自体への嫌悪感は薄れたが、かといってW杯に興味があるかと聞かれたら全然ない。私にとっての日本代表チームは、クリケットのバングラデシュ代表と同じくらいには謎の人間集団である。
そんな私が、なぜ大会予選会場の埼玉スタジアム2002に向かっているのか。理由は他の中国オタク数人(すべて日本人)と一緒に「中国代表をアウェイ席で応援するため」だ。
国際試合「中国代表」を応援する味わい
そもそも、私たちが「日本で中国代表チームを応援する」という奇行にはしるのは今回が2回目だ。前回は2023年3月、東京ドームでおこなわれたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)予選最終日の韓国vs中国である。その観戦があまりにも面白かったのだ。
中国における野球はマイナースポーツで、国民の関心は低い。なので球場の中国側席では、見に来ている中国人ファンですら野球のルールをわかっておらず、応援の方法も知らなかった。そんな国なので、野球中国代表もとても弱い。
私たちの観戦当日、韓国代表は予選敗退が決定している大会にストレスが溜まっていたのか、中国の内野守備の弱さにつけ込んで7点差でもバントヒットと盗塁を連発するという鬼畜のプレーを積み重ね、最終的に22-2(5回コールド)で完勝。だが、中国のファンたちは、試合後に選手たちを拍手で見送り、なんだかとても優しい世界が広がっていたのだった。