確かに、私たちが買った中国側エリアの格安の自由席(実質立ち見)のチケットは、価格変動制の結果とはいえわずか2400円。王さんの席はもうすこし高そうだが、それでも4000円台だろう。いちばんいいラウンジ付シートでも2万9700円だ。
いっぽう、中国側報道によると、9月10日に大連で開催される中国vsサウジ戦のチケットは280元~1680元(約5600円~3万4000円)である。一般向けの安い席ほど、日本のほうがお得感がある。王さん夫妻を見ていると、いろんな意味で日中の装備や物価の逆転は感じる。
中国経済は今年に入り本格的な不振が伝えられ、それは事実でもある。ただ、バブル崩壊からしばらくの時期の日本人と同様、それまでの経済成長期にグンと増えた蓄積は、国が不景気になってもすぐに消え去るわけではない(中国人の資産は不動産依存度が高いので「消えた」ものも多いとはいえ)。なんだかんだで、彼らは豊かになっているのだ。
中国直輸入応援団、ガチ燃え
「そりゃな、さすがに中国代表は勝てないとは思うよ。でも、頑張ってほしいよな!」
スタジアムの入り口で、そう話す王さんたちと別れて自分たちの席の入り口を探す。どうやら中国側のアウェイ席に日本人が入ることを会場側が想定しておらず、場外で案内するお兄さんの説明が人によって違う状況に翻弄されながら建物内に入ると、残念ながら中国側の国歌斉唱はすでに終わっていた。義勇軍進行曲を大声で歌いたかったのに痛恨の極みだ。
だが、太鼓の音に合わせて声を上げる中国サポーターたちはアツい。多数の旗とともに最前線に陣取る最も熱心な人たちは、おそらく龍之隊球迷会。中国ナショナルチームのオフィシャル応援団だ。後にスタジアム外で「日本遠征隊」のプラカードを出している姿も確認しており、多くの人たちが中国直輸入組だろう。
他のエリアに座る人たちも、背中に「為中国而戦」(中国のために戦う)と書かれた龍之隊のTシャツを着ている人が多い。アウェイ席は当然、すべて中国人であり、日本でいちばん中国人密度が高い一角と化していた。ネイティブの日本人は私たちだけに思える。
到着時間が遅かったため、自由席の空席はすでになく、私たちは通路の上のほうに直接座って観戦することになった。割と頻繁に人が通るが、基本的に譲り合う雰囲気があり、間違えて足が当たった人はちゃんと謝ってくれる。
観戦しながら鴨脖(煮た鴨の首)や骨付きの鶏肉をむさぼり食う人が多いため、スタジアムに常に西川口のガチ中華店っぽい香りが漂っていたが、サポーターのマナー自体は悪くない。なかなかやるじゃん、中国。
さあ、ついに試合開始だ──!
撮影 安田峰俊