1ページ目から読む
3/3ページ目

 担当者が心肺蘇生の手順を口頭で丁寧に説明すると、胸骨圧迫のリズムを補助する電子音が「ピッピッピッ」と小刻みに流れる。

すでに死斑が出ていた

 通報から5分後、救急車が到着。A子さんは野崎氏のもとに残って心肺蘇生を続け、須藤が家の外へ救急隊を迎えに出て行ったところで、通報の音声記録は終わる。法廷の須藤は、じっと音声に耳を傾けていた。

「救急隊員が確認すると、野崎氏は脈拍や呼吸音がなく、死斑も出ていたため、その場で死亡と判断されました。医療機関へは搬送せず、田辺警察署に連絡をしています」(前出・司法担当記者)

ADVERTISEMENT

須藤早貴被告

 9月13日の第2回公判では、救急隊からの要請を受けて臨場した田辺署員のうち2人が検察側の証人として出廷。死体を調査した警部は、直腸温の高さや死後硬直の強度などの状況から、この時点で薬物使用の可能性も疑ったという。

 後日、新法解剖された野崎氏の胃の内容物からは致死量を超える覚醒剤成分が検出された。こうして謎に満ちた「紀州のドン・ファン事件」は幕を開けたのである。発生から6年余。事件は舞台を法廷に移し、以後も証人尋問を軸に続く。判決は12月12日――。